82 ページ32
聞くに耐えない、何とも情けない声だった。
恋仲になったはずの遠のく背中を前に、やけにくたびれた服装のイライは魚のように口を開けて唖然としている。
この様子だと尚更先生に診てもらった方が良さそうだ。
「もしかして今のは冗談だったりするのか」
「それこそ冗談じゃない.......」
フードを深く被り直したイライは、小説なんかでよく見るヒロインのように膝から崩れ落ちた。
「おいおいおい、頼むからこんな所で泣くのだけはよしてくれよ。女じゃあるまいし」
それに俺が泣かせてるみたいだ。
だがそんな声掛けも役には立たず、悔しいと言わんばかりに目の前の女々しい男は床に突っ伏して肩を震わせている。
さて、今日の掃除当番は誰だったか。
「綺麗なもんじゃないぜ、床って」
「あ、あい、愛してるって言ったんだ」
言葉全てに濁点が付いたような悲痛な声だった。
一体どうしてしまったんだこいつは。心労でも蓄積されていない限り、泣き言を言うようなナヨナヨした男なんがじゃなかったはずなのに。
「相当重症だな...ほら泣いてないでさっさと立てよ、ここに居てもしょうがないだろ」
「う、うう.......」
無理矢理立たせたイライの顔は濡れてこそいなかったが、涙を我慢するべく歯を食いしばったせいで、ぐずる赤子のように真っ赤だ。
「あは、なんだその顔すげー変。こりゃAに愛想つかされる理由もわかるぜ」
「他人事のように笑っていられるのも今のうちだぞナワーブ」
俺のフードを引っ張ったイライは、ぐずぐずになった鼻を途端に押し付けた。
言わずもがな、奴は俺の服に鼻水を撒き散らしたのだ。豪快にかまれる鼻の音にからかったことを心から後悔した。
それと同時にイライのこんな大人気ない姿をAに知られでもしたらそれこそ幻滅ものだと、他人事のように考えていたイライが急に心配になり全身から冷や汗が吹き出した。
笑って悪かったよイライ、頼むからこれ以上はよしてくれ。お前と俺の為にも！
「女々しいとか思って悪かったって！ 」
「そんな事を思っていたのか君は！ 覚えておけよ！」
この後話を聞くべく泣く泣く俺の部屋へ連行したのだが、その道中にも幾度となく大人気ない行為を繰り返す俺たちの、それこそ大人気なくて悲痛な叫び声が廊下に響き渡っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 157人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イキテル(プロフ) - 猫夜桜((シラキさん» とても嬉しいコメントありがとうございます。閲覧感謝です！ (2020年4月2日 1時) (
レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
猫夜桜((シラキ - 何も言えない、言いたいんだけど語彙力が無さすぎて、あと文才ありまくりプロの方ですか← (2020年4月2日 0時) (レス) id: 27d48dc6f8 (このIDを非表示/違反報告)
イキテル(プロフ) - ハルさん» コメントありがとうございました、今後の励みになります。感謝です！ (2020年3月25日 0時) (レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 読み易い！文が綺麗！ (2020年3月24日 15時) (レス) id: 121cd7f10a (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - ご返答ありがとうございます、了解しました！貴方様の作るお話が大好きなのでこれからも頑張ってください！応援してます！ (2020年1月30日 10時) (レス) id: 48f80f9c86 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イキテル | 作成日時：2019年12月26日 2時
