64 ページ14
まだ誰の足跡も付いていない無常の白さが、外灯の明かりに照らされてキラキラと結晶のように光っていた。
少し前まで雨続きだと思っていたのに、いつの間にか積雪が始まっている。
結晶のように光る傍で、月明かりに照らされた雪の色がほのかに青く煙っていた。
「.......遅いな」
頭に思い浮かべたのはAの姿だった。
ゲームに出かけたのは昼過ぎ頃だっただろうか。怪我をしていなければいいけど。
「作業は捗ってる？ サンタさん」
「ダイアー先生」
暖炉にくべる薪を抱えたダイアー先生が談話室の扉を開いた。
テーブルの上に広がるプレゼントとラッピングの山を目にすると、察したかのように苦い笑みを浮かべた。
「大変そうね、私でよければ手伝うわ」
「ありがとうございます」
サンタ役を買って出たのはAだった。大方、僕との言い争いがバレないように嘘でもついたのだろう。
まったく困った人だ。
というのはただの口実でAが咄嗟の嘘に僕を巻き込んでくれた事を、実は嬉しく思っていた。
それに写真のこともまだ謝っていない。
ゲームの勝敗なんてどうでもいいから、無事に早く帰って来てくれないだろうか。
「このオルゴールは誰へのプレゼントだったかしら」
不思議そうな顔をしてダイアー先生は木造りのアンティークなオルゴールを持ち上げた。
「それは僕から友人に、と思って」
踊るバレリーナがいたり、金や銀の装飾も無ければ今流行りの音楽が流れる訳でもない。
新品同然の光沢も無く、表面の木は少しくすんで見えていた。
「中身を見てもいいかしら」
「どうぞ。何の変哲もありませんけど」
木彫りで自然の風景が描かれた蓋の裏。中心には小さな凹凸のある鉄の円盤がはめ込まれており、向かって右側の取手を回すと、時計の針のような細い円柱が時計回りに心地良い音を奏でた。
「良い音だわ。曲名は？」
「それが分からないんです。遠い昔...両親から貰ったような、それだけが頼りで」
「名前のない曲ね。彼女の好きな色は知ってる？ 特別なプレゼントなんでしょう？」
一度も相手が女性だと言った覚えは無かった。
それでも見透かしてるかのように、ダイアー先生は意地悪気な顔をして笑っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 157人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「第五人格」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イキテル(プロフ) - 猫夜桜((シラキさん» とても嬉しいコメントありがとうございます。閲覧感謝です！ (2020年4月2日 1時) (
レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
猫夜桜((シラキ - 何も言えない、言いたいんだけど語彙力が無さすぎて、あと文才ありまくりプロの方ですか← (2020年4月2日 0時) (レス) id: 27d48dc6f8 (このIDを非表示/違反報告)
イキテル(プロフ) - ハルさん» コメントありがとうございました、今後の励みになります。感謝です！ (2020年3月25日 0時) (レス) id: eab5f6dd9c (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 読み易い！文が綺麗！ (2020年3月24日 15時) (レス) id: 121cd7f10a (このIDを非表示/違反報告)
もも(プロフ) - ご返答ありがとうございます、了解しました！貴方様の作るお話が大好きなのでこれからも頑張ってください！応援してます！ (2020年1月30日 10時) (レス) id: 48f80f9c86 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イキテル | 作成日時：2019年12月26日 2時
