143:悪木盗泉 ページ43
そう言ってAは久しぶりに地面に立ち、制服の袖で顔を拭う。
「全く本当にお前は…」夜蛾は、何時間かぶりに自身のイカれた生徒を前にして呟く。
呆れているのか安堵したのか。
二人の目先には、名取吉祥の姿をした別の誰かがヌッと起き上がり初めていた。
「夜蛾、今から私の言う事信じてくれ」
Aは正体不明の何かから目を逸らす事なく、隣の夜蛾に告げた。
夜蛾も同じくして目の前から視線を外さない。
「吉祥___名取吉祥の中に、別の誰かが居る」
「何…?」
夜蛾は片眉を上げた。
目の前の男が緩慢な動きで立ち上がり、悠長に衣服を払う。
「本人が認めたから間違いねぇ。名取吉祥本人の体ではあるんだけど、別の何かが乗っ取ってやがる」
「…じゃあ、今までの呪術師殺しは、」
確認するようAを見ると、彼女はこくりと頷いてみせた。
今一度、夜蛾は男に視線を向ける。
こちらを見て、不敵な笑みを浮かばせるその姿は、確かに夜蛾が知る“名取吉祥”とは何処か違っていた。
夜蛾が知る名取吉祥は、もっとこの世を諦めたような顔しか見せてくれなかった。
「話が変わってきたな」
我々が名取吉祥の仕業だと思っていたはずの全ては、名取吉祥を装った誰かの仕業という事になる。
それは一体何時からの事だったのか。
もしかしたら、遡ること最初の事件。名取吉祥による非呪術師の、本人を残した一家惨殺事件もこの装った誰かの仕業だった。
そうだとすれば、大きく話が変わってくる。
「A、お前は一体その事実を前にしてどうしようと思っている」
訊ねると、Aは平然としてしかし力強い声で返した。
「吉祥本人に体を返してもらう。それ以外は認めねぇ。吉祥は無罪だ。無罪の奴が罪を被るのはちげーよ。目の前のうすらクソゴミ野郎に、しっかりきっちり耳揃えて罰を受けてもらう」
Aの言葉を聞き届け、夜蛾は暫し黙った。
得体の知れない誰かが、全てのことを引き起こしていた。
その真実に辿り着いたのは、ベテラン呪術師でも等級の高い呪術師でもない。
可借夜Aという、半人前の高専生徒。いや、半人前の呪術師であった。
ただ一人が、全てを敵に回しても真実に貪欲に食らいついた。
「夜蛾、まだつつじの、あー…私の友達の状態が確認できてねぇ。野郎、つつじで脅してくる真似はしなかったって事は、多分無事ってことだと思う」
「……お前、何時の間にそこまで成長した?」
「突然の教師ムーブ気持ち悪ぃよ…」
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鼻毛太郎(プロフ) - がろさん» コメントありがとうございます!!当時かなり気合い入れて書いていたので、褒めて頂けてとても嬉しいです😭🤍 毎回満身創痍バトルしてますが、ぜひぜひ手に汗握ってお楽しみ頂ければ幸いです!! (2月10日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
がろ - 戦闘シーンが凄く引き込まれます!手に汗握っちゃいましたw とっても面白かったです😊 (2月9日 22時) (レス) @page37 id: 22f975986f (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - ぴくさん» ありがとうございます、とても嬉しいです!!💜次章でもコメントを頂いていて、励みになります…!😭残り少ない1年生編ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです (2022年4月23日 0時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
ぴく(プロフ) - 設定とかキャラとかしっかり作り込まれてて、気づいたら一気読みしてます。応援しています! (2022年4月23日 0時) (レス) @page39 id: 8f6e3156ea (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - Chaosさん» 本編の方でもコメント頂き、こちらでも…!!嬉しい限りです💜🥺2頁でやれることを5頁ぐらいでやってますが、そろそろこちらも一区切り着きそうです。ぜひ、最後までお楽しみ下さい!! (2022年1月28日 10時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2021年12月25日 12時