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132:地獄極楽 ページ32

「やはり____、」

「あ?」

甚爾が片眉をあげる。

「やはり、持っているのか。彼奴が」

サルマネの唇が小刻みに震えている。
瞬き一つしず、尋ねてくるというよりも、まるで自分に言い聞かせるように述べたサルマネの姿は今までの中で一番不気味だった。

沸き立つ不穏な空気に身を警戒させつつ、甚爾は「何?」と尋ね返した。
サルマネはまだ瞬きをしない。

「獄門疆をだ。“小童が”____」

ぶわ、その時沸き立っていた空気が一気に沸騰した。
怒れる猿の姿は、あんなにも人間に近しいのに前にすると恐ろしくて足が竦む。
まさにその通りで、サルマネは歯を剥き出しにし感情を初めて露わにした。

「私を…ッ、騙しおったなァッッ!!??」

地雷でも踏み抜いたか。
甚爾は刀を構えた。

「利害の一致に手を貸してやったものの、この私を出し抜きおったなァァアアッッ!!!この、たかが、人間風情のガキがッッ!!!」

キレたサルマネは、興奮をそのままに空気をも震わせる声を上げた。
その声は先程の感情に身を任せた声とは大きく違い、琴よりも深く重く、三味線ともまた違う、だがしかし間違いなく弦を弾いたような音を張り上げた。


この音_____、


状況把握も儘ならない甚爾の目の前、サルマネの足元が突如渦を巻いた。
その渦潮の中からサルマネの手へと放り投げられたのは、大きなしゃもじを模した楽器。
昔、禪院の家で目にしたことがある。これは___。


「琵琶…」


木造りの琵琶には四本の弦が張られ、胴体に孔雀の羽が描かれている。
羽の中心は極彩色の目玉が描かれ、禍々しいオーラを放つ。

「私の等級は正直それほど高くはない。だが、それでも千年前の平安の乱世を生き抜いた。何故だか分かるか?狡猾だからだ。常に相手の一手二手先を考え、虎視眈々と足元を狙う。
コイツは、私の生き抜く道を更に広げる呪具」


至ってシンプルで、凶悪。


「術の籠った私の声を載せ、琵琶から発せられる音と主に広範囲へ術式の拡張を行う。名を_____『壇ノ浦(だんのうら)』」


べん、弦を掻き鳴らし音が鳴り響く。
甚爾は相変わらず口の端を吊り上げ、しかし背には冷や汗を伝わせ呟く。

「呪力の強制拡張…へぇ、いいモン持ってんじゃねーか」

俺が持てばただの楽器にしかなんねーけど。
呑気に付け足すもサルマネは言葉を返さない。
彼の瞳に籠るのは、圧倒的な殺意。

「コイツがあれば、あの小童を殺し獄門疆も手に入れられる」

133:強迫観念→←131:御耳拝借



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鼻毛太郎(プロフ) - がろさん» コメントありがとうございます!!当時かなり気合い入れて書いていたので、褒めて頂けてとても嬉しいです😭🤍 毎回満身創痍バトルしてますが、ぜひぜひ手に汗握ってお楽しみ頂ければ幸いです!! (2月10日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
がろ - 戦闘シーンが凄く引き込まれます!手に汗握っちゃいましたw とっても面白かったです😊 (2月9日 22時) (レス) @page37 id: 22f975986f (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - ぴくさん» ありがとうございます、とても嬉しいです!!💜次章でもコメントを頂いていて、励みになります…!😭残り少ない1年生編ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです (2022年4月23日 0時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
ぴく(プロフ) - 設定とかキャラとかしっかり作り込まれてて、気づいたら一気読みしてます。応援しています! (2022年4月23日 0時) (レス) @page39 id: 8f6e3156ea (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - Chaosさん» 本編の方でもコメント頂き、こちらでも…!!嬉しい限りです💜🥺2頁でやれることを5頁ぐらいでやってますが、そろそろこちらも一区切り着きそうです。ぜひ、最後までお楽しみ下さい!! (2022年1月28日 10時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2021年12月25日 12時

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