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118:干将莫耶 ページ18

二つを手に戦った時、Aは使う方ばかりに呪力を載せていた。
均等に呪力を掛けていた事は無い。必要に応じて呪力配分を割り振っていたからだ。

その時に変化したことはない。

“ひとつに”がそういう意味だとすれば、読みが当たっていれば…!!


Aは大きく息を吐き出し、自分がやれる限りの呪力を操作した。
片方ずつに均等に呪力を行き渡らせる。
寸分の狂いがあってもいけない。
ひとつに、同じ個体のように思わせるのだ。


Aの纏う空気が一気に研ぎ澄まされる。
それは一本の刀のように。真っ直ぐと先まで。
雑念の全てが外に押し出され、Aの体が意識の底に沈む。
呪力が臍を中心に体中へと周り出す。

もっと。もっとだ。

実家の寺で坐禅を組む時よりも、もっと深く意識の底に落ちろ。
それはまるで、釈迦の前に立つように。もっと、もっと。
たった一本の蜘蛛の糸を手繰り寄せるように。もっと。



もっと




瞬きをしないAの目。
まつ毛を伝い、額の血液が地面へぽたんと落ちた瞬間だった。


二つの呪具が、光を帯びたのだ。
緑の閃光を帯び眩く煌めいた時、それは姿を現した。


Aが、無意識に構える。
どうしてかAには、変化する前にその物の形が見てとる様に分かっていたのだ。


やけに体に馴染む。


真っ直ぐと伸び、鋭く光る。
鍔も何も無い、余計なものを一切持たない剥き出しの刀身。


甚爾はその姿に自然と笑みを浮かべてしまっていた。
やった、アイツついにやった。


母親、綺羅のクソババアそっくりの立ち姿。
クソ、被って仕方がねぇ。



「太刀……『雲隠(くもがくれ)』」



雲隠。
それは、呪具を専門に打つ鍛治職人『藤原式部(ふじわら しきぶ)』により製作された一本の刀である。
桐壺と夢浮橋に、均等に呪力を与えた時だけに生まれる幻の太刀。
藤原式部は、この雲隠を完成させるとこう言葉を残したと言われている。


“この刀は、新たな時代を始まらせる刀だ。
 始まるために、終わらせる刀だ。“



Aは刀を見遣る。
初めて持った気がしない。不思議な感じだ。

鋭い鋒。Aは刀をじっと見た後、目の前を見据える。
化け物と化したヤオビクニは、這うように起き上がり血反吐を撒き散らしながら雄叫びを上げている。
言葉をまともに喋れないヤオビクニに、もはや理性や知性というものは存在しない。

あるのは、目の前のAを殺すことだけ。


「…よし」


Aは小さく呟くと、甚爾を呼んだ。

119:打撃斬撃→←117:衣鉢相伝



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鼻毛太郎(プロフ) - がろさん» コメントありがとうございます!!当時かなり気合い入れて書いていたので、褒めて頂けてとても嬉しいです😭🤍 毎回満身創痍バトルしてますが、ぜひぜひ手に汗握ってお楽しみ頂ければ幸いです!! (2月10日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
がろ - 戦闘シーンが凄く引き込まれます!手に汗握っちゃいましたw とっても面白かったです😊 (2月9日 22時) (レス) @page37 id: 22f975986f (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - ぴくさん» ありがとうございます、とても嬉しいです!!💜次章でもコメントを頂いていて、励みになります…!😭残り少ない1年生編ですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです (2022年4月23日 0時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
ぴく(プロフ) - 設定とかキャラとかしっかり作り込まれてて、気づいたら一気読みしてます。応援しています! (2022年4月23日 0時) (レス) @page39 id: 8f6e3156ea (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - Chaosさん» 本編の方でもコメント頂き、こちらでも…!!嬉しい限りです💜🥺2頁でやれることを5頁ぐらいでやってますが、そろそろこちらも一区切り着きそうです。ぜひ、最後までお楽しみ下さい!! (2022年1月28日 10時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2021年12月25日 12時

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