170:ギャルと折り合い ページ20
どのくらいこうしているだろうか。
暗い部屋の中、時折肩口ではAの啜り泣く音が聞こえた。
喉が裂けるほど泣いていたAが、今は静かに小雨が降るように泣いている。
そのぐらいには落ち着いたってことかな。僕は黙って背を撫でた。
Aが、ふと僕を抱きしめていた腕を緩めた。
緩め、そしてゆっくりと体を離す。
Aはもう泣いていなかった。
「落ち着いた?」
尋ねると、Aは残った涙を人差し指で拭いながら「うん」と呟いた。
今一度見たAの姿は痛ましいものだった。
頬に湿布がある。顔を殴ったのかよ。
殺してやりたくなる。
思わず拳に力が籠もった。
いいんだよ、A。
僕に『殺してくれ』と頼んだらすぐにでも相手を殺しに行くよ。
血眼になって、僕が出来る最大限の力を使って探し出して、殺してやるよ。
ねぇ、
「A、」
僕に頼めよ。他のやつには出来ないけど、僕には出来る。
そいつを殺して復讐する、Aの前で晒しあげてやるよ。
言いかけたその時、Aが情けないねと笑った。
「メイクもぐしゃぐしゃで、喉は掠れてるし、傷だらけだし…最悪。悟以外に見られたら、堪ったもんじゃないね」
突然Aが言い出すから、僕は少しばかり呆気に取られてしまった。
Aは弱々しく口元を緩めたまま、「笑えるぐらい酷いかも」と呟き窓の外に目を向ける。
雲が動いて、月が覗いた。
月光がAを照らす。
その憂げな姿、思ってるよりも綺麗だよ。なんて言ったら、機嫌を悪くするだろうか。
僕は本心で今思ってしまったけどな。
「悟、私ね」
Aが口を開く。
「どうしたら良かったか、必死に考えたんだ。未来予知なんて出来ないから、何か偶然が重ならない限り順平を助けに行くことは出来ない。じゃあ、力の限り復讐心を燃やして呪霊を殺せば良かったか……それも違う」
死んで償える程、軽くないよ。Aは言った。
死は重い。けれど、逆に言えば救済にも値する。
死ねばその時点で償いは終わってしまう。
残酷な事を言うようだが、心から復讐したい相手を殺して終わりなんて甘い。
死んで償えると思うなという話だ。
「前をむき歩いていく、それは綺麗事すぎる。然るべき時・場所、相応の償いをさせる。復讐じゃない、過去へのケジメとしてだよ。でも、それをするのは私じゃない。悠仁だ。」
私に出来るのは、ケジメを付けられる程彼を強くしてやる事。
Aはふっと笑って「悟のおかげだよ」と付け足した。
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鼻毛太郎(プロフ) - 華花。さん» コメント有難うございます!これでいいのか...?と悩む時期が続いていた中、温かいコメントを頂けて本当に泣くほど感謝してます;;現在5章目を製作中なので、しばしお待ちを…!今後もギャルと呪術を宜しくお願い致します! (2021年4月21日 11時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
華花。(プロフ) - いつも緊張して送れませんでしたが初コメント失礼します!もう作者様は言葉選びから構成まで最高すぎます…素敵な作品を生み出してくれてありがとうございます! (2021年4月20日 23時) (レス) id: 2bd2296ed7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2021年3月1日 0時