168:ギャルと地獄の底へ ページ18
「あんな道を選ぶのは、Aさんだけで十分ですよ」
七海は天を仰ぐ。
見ていられない、七海は付け足した。
「あの人は、その道を地獄と呼んでいます。その地獄で足掻き歩くのは、きっと死にたくなる。歩いていくうちに自分を見失わないよう、Aさんはあの姿はをし続けるんですよ」
それが、彼女が未だに“ギャル”のなりをし続ける本当の理由だ。
病んだ人間が薬を飲み精神を安定させるように、Aにとってあの姿は精神の安定を意味する。
私が私で居れるように。
見失わないように。
「…俺も、俺のままでいたい」
悠仁のその言葉は、何処か脆く儚かった。
「ここまで話しても、君はAさんのように貫くんでしょうね。貴方とAさんは似ている」
それがどんなに危うい事なのか、七海は分かっていた。
Aが堕ちずにいられるのが、五条のおかげなのだと七海は知っている。
ギリギリの所で、五条はAの手を握る。
虎杖君には、他一年の二人がそれに該当するといいんだが。
七海は思った。
想い人じゃなくとも、君の手を握って離す事をしないなら誰だっていい。ただし、離さないでほしい。それだけだ。
「死なない程度にしてくださいよ。虎杖君はもう、呪術師なんですから」
七海は言葉を残し、その場から去った。
泣きたい気持ちで悠仁はいっぱいだった。
きっとAも、失って始めて“呪術師”になれたんだろう。
あぁ、本当だ。この道は地獄だ。
鉄柵を掴む悠仁の手に力が篭もる。
上を向き、涙を流さないようにした。
「A、俺頑張るよ。足掻くよ」
この世界で、息をし続ける限り。
____。
電気もつけたく無かった。
誰もいない応接室。
ソファーの端に、Aは足を抱えて胎児のように蹲っていた。頬に貼った湿布の匂いが、息を吸い込む度に肺に押し込まれる。
抱えた膝の隙間から、Aは机の角を見つめた。
見つめた先に意味は無い。
Aの頭にあるのは、変わり果てた順平の姿だった。
間に合わなかった。
結局、間に合わなかったのだ。
Aは顔全てを膝の中にしまい伏せた。
震えそうになる肩に必死に力を入れた。
喉の奥が熱い。熱くて、カラカラに乾いている。
息をする度に体が干からびていくみたいだ。
がら、と開いた扉の音にAは微かに肩を跳ねさせた。
1人にしてほしいと言ったのに、構わずズカズカと入ってくる奴なんてアイツしか居ない。
自分の前で止まる。気配で分かった。
「A」
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鼻毛太郎(プロフ) - 華花。さん» コメント有難うございます!これでいいのか...?と悩む時期が続いていた中、温かいコメントを頂けて本当に泣くほど感謝してます;;現在5章目を製作中なので、しばしお待ちを…!今後もギャルと呪術を宜しくお願い致します! (2021年4月21日 11時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
華花。(プロフ) - いつも緊張して送れませんでしたが初コメント失礼します!もう作者様は言葉選びから構成まで最高すぎます…素敵な作品を生み出してくれてありがとうございます! (2021年4月20日 23時) (レス) id: 2bd2296ed7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2021年3月1日 0時