190:ギャルと密偵 ページ40
湯呑みの中を見つめたまま、歌姫は動かない。
茶に映る顔は、気に入らないという顔。
五条はそれを横目で見て、小さく笑った。
「その気持ち分からなくないけどね。…僕も、昔はそうだったし」
「何か言ったかしら?」
「いいえ、なーんにも」
ずず、五条は茶を啜る。
Aは生徒の様子を見に出て行ってしまった。
すっかり教師だな。
卒業課程に入った頃、五条はAに「教員やらないの?」と尋ねた事がある。
その時は「私に子供の面倒見るセンスあると思う?」なんて笑いながら返ってきた。
滅茶苦茶あるよ、A
喉の奥で五条は笑った。
「歌姫さぁ、Aが居ないから丁度いいや。言っときたいことあんだよね」
「Aの事ならアンタには一切教えないわよ」
歌姫の言葉に、五条はそうじゃないよと返す。
思わず歌姫は五条を見た。
先程よりも、彼の声音が幾分か真剣だ。
普段から軽薄だからこそ、声音の違いがよく分かる。
「Aの前では言えない事だ」
言えない?
歌姫は表情だけで尋ねる。
「正しくは、Aに無理させたくない。とは言っても、あの人のことだから事態は把握してると思うけど。自分から話題にあげない辺り、動く機会を見計らってるのかも」
尾を掴めば本格的に動けるからね、特研は。
五条は付け足した。
「高専に、呪詛師か呪霊どちらかに内通してる者がいる」
「…ッ」
歌姫は息を飲み込む。
有り得ない。呪霊と意思疎通を?
「最近多いんだ、知能がある呪霊って言うのかな。歌姫には京都校の調査を頼みたい」
「私が内通者とか…考えてないわけ…?」
歌姫が尋ねると、五条は顔を向けた。
「Aの情報が漏れてるんだよ」
歌姫は目を見開く。
それって____、
「七海からの報告で、相手の呪霊がAの領域展開を知っていたらしい。Aが最後にした領域展開は呪われる前だし、そもそも他人の領域展開の効力なんて他人はそうそう知らないでしょ」
一体、どこのどいつがベラベラ喋ってんだ…?
ミシ、五条の手の中の湯呑みが音を立てる。
「そんな情報まで出回ってるって事は、Aは狙われてるってことだよね」
五条の言葉には、強い憤りが感じられた。
「ま、」
五条の声音がころりと変わる。
「歌姫はAだいちゅきだから、内通者なんて無理無____、」
投げられる湯呑み。
無限の壁に阻まれるお茶。
本当にAが大事なんだ、なんて思ったのは前言撤回。
クソ野郎め。
歌姫は思った。
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鼻毛太郎(プロフ) - 華花。さん» コメント有難うございます!これでいいのか...?と悩む時期が続いていた中、温かいコメントを頂けて本当に泣くほど感謝してます;;現在5章目を製作中なので、しばしお待ちを…!今後もギャルと呪術を宜しくお願い致します! (2021年4月21日 11時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
華花。(プロフ) - いつも緊張して送れませんでしたが初コメント失礼します!もう作者様は言葉選びから構成まで最高すぎます…素敵な作品を生み出してくれてありがとうございます! (2021年4月20日 23時) (レス) id: 2bd2296ed7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2021年3月1日 0時