069： 欠乏 ページ22
｢何よ、アイツっ…！｣
カシュッと音を立て、本日何回目かのプルタブを引く。
一体何缶呑んだのだろうか。ひ、ふ、み…と指を折るが、面倒になりすぐに止める。
玄関前に座り込み、空き缶の山の中Aはぐっと次なる缶を喉に流し込む。
｢ふん、帰ってきた途端この光景を見て罪悪感に打ちひしがれればいいわ…私を、この私を…！｣
また呑む。
｢放っておいて、仕事ですって！？｣
Aは完全に酔っていた。
｢別に寂しくなんかないわよ、調子に乗りやがって…！｣
呑み干した缶を放り投げ、再び次なる缶を開ける。
｢大体、今まで1人でなんでも熟したこの私が…ッこの、私が………｣
言いかけた時、ふと少し前のヒソカの言葉が過ぎる。
『…家に帰りたい？』
猛禽類の様な鋭い瞳を、この時ばかりは柔らかくし彼は言った。
その言葉を聞いた瞬間、Aの心は強く波立った。
勿論、あの時ヒソカに言った言葉は本音だ。
しかし、Aにとってあの言葉というのは＿＿＿至極残酷なものでもあった。
玄関前、薄暗い闇の中Aは小さく膝を抱える。
「…帰れるものなら、帰りたいわよ。」
呟いた言葉が、闇の中に溶けて消える。
誰も、何も返さない。
家族は、どうしているだろうか。
心配しているんだろうな…
Aの頭の中で、イルミからの電話の記憶が思い出される。
ここには、姉を呼ぶ声も甘えてくる声もない。
あの時、自分がもっと強ければ…『エデン』を奪われることもなかった。
もっと強ければ、こんな事には＿＿＿。
「…ッ」
膝を強く抱え、ぎりと奥歯を噛み締める。
こんなにも、自分の力について思い悩むのは初めてだ。
なんて自分はちっぽけな存在なのだろう。
思い出す度に悔しさがこみ上げ、何もかも放り出したい気持ちになる。
事の不条理は、全て自らの能力不足。
何よりも、『エデン』を守れなかった事がとてつもなく辛い。
「ダメね。……一人になると、自分を攻めずにはいられなくなるのって…」
くしゃりと髪を掻き上げ、Aは自嘲気味に笑う。
ヒソカが居るという事実が、自分にとってなんと大きいことか。
なんて、厄介な感情なのだろうか。
辛くて、苦しくて、悔しい。
逃げ出したいが、逃げるわけにはいかない。
カラン、と氷の音がした。
Aはそんな氷を、虚な目で見つめる。
「何もかも、固まっちゃえばいいのに…」
まるで、氷のように＿＿＿＿。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 511人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HUNTER×HUNTER」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鼻毛太郎(プロフ) - rinochan810さん» ありがとうございます；；とっっても嬉しいお言葉…！読みながらドキドキして下されば、夢書きとして本望です…！これから2人の関係が徐々に変化していくので、楽しみにしていてくださると有難いです！ (2020年9月14日 23時) (
レス) id: 2a028e4c13 (このIDを非表示/違反報告)
rinochan810(プロフ) - あの、本当に素敵です…ドキドキさせられてます…。いつも楽しみにしています。これからも応援してます…！ (2020年9月14日 19時) (レス) id: 06f6601bca (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - ミリさん» コメントありがとうございます！文章に関しては、普段文字量が詰め詰めで申し訳ない…と思いながら書いていたので、そう言って頂けると凄く嬉しいです；；今後も、更新が遅くなる日もございますが宜しくお願いいたします！！ (2020年8月20日 17時) (レス) id: 16ef441d86 (このIDを非表示/違反報告)
ミリ - はじめまして。リメイク前の作品も読ませていただきました!!どちらも面白かったですし、文章も読みやすかったです。絵もステキですね!!!これからも読ませていただきます!!! (2020年8月19日 14時) (レス) id: 19b3aa7f76 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - Aaaさん» リメイク前の作品まで読んで頂けるとは…！とっても嬉しいですありがとうございます！！今後も、ちまちま細々と更新していきますので是非最後までお付き合い頂けると有難いです…！ (2020年8月10日 21時) (レス) id: 2a028e4c13 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鼻毛太郎
| 作成日時：2020年7月27日 0時
