【呪術廻戦】呪術とギャル-0-

012：万有引力 ページ12

Aは夜蛾の言葉に片眉をあげた。

「待ちな。母さんは特級だったんでしょ？」

Aはつい数日前に、漸く呪術師における階級を理解した。

「言っただろ。特級は、呪術師の中でも斜めに構えた位置に存在する」

「…もっと簡単に言えよ」

要はわからないんだな、と夜蛾は察しため息をついた。

「危険度、特殊性、呪術師の中でも異端児という事だ」

「私みたいな？」

「お前は四級以下だ」

ぶっすーと頬を膨らますA。
ちょっとボケただけじゃん。

「特級だったにも関わらず、何故母親はこの『凌駕万有呪術』を完成させることができなかったと思う？」

腰の後ろで手を組む夜蛾は教師らしく尋ねた。
とはいっても、元から教師なのだが。

Aは床に両足を投げ出し、「…興味なかったから？」と答える。

「この呪術があまりにも厄介で、手に負えないものだったからだ」

呪骸へかけた術式を解く夜蛾。
ウサギはぺたりと床に座り込み、ただのぬいぐるみへ逆戻りする。
今ならコイツ引き裂けるな…と瞳を光らせるAだが、「聞いてるか？」という夜蛾の言葉に引き戻される。

「これはお前の母親の受け売りだが、『術式を物しようとするがあまり、身を滅ぼした者は多い』と言っていた。大抵の者は、術式の強力さに恐れ自ら身を引く。それ以外は＿＿＿」

「深追いして、死ぬ」

「分かってるじゃないか」

夜蛾が言うと、Aはふふんと笑い「ここが、良いからね」と自身の頭を指差した。
褒めた俺が馬鹿だったな。夜蛾は肩を落とす。

「『凌駕万有呪術』は、言葉通り万有…宇宙全ての万物を凌駕する術式」

夜蛾はAの周りを練り歩きながら言う。

「母親曰く、この世の全ては”引力”により惹かれあっているらしい」

人間が地を歩けるのは、地と足の間に引力が作用しているから。
石が手を離せば落ちるのは、間に引力があるから。
人と人が惹かれ合うのは、そこに引力があるから。
肉体と魂が繋がっているのも、そこに引力があるから。

「何それ、屁理屈じゃん」

「あの母親は、その屁理屈を全て術式と結びつけることができた。だから、特級なのだ。唯一成し遂げられなかったのは、肉体と魂の間にある引力を操作すること」

「おいおい、そんなん出来たら倫理観ぶっ壊れるっつーの！」

「あぁ…前代未聞だ。そんな事が出来たら、神も同然。…呪術界のパワーバランスが完全に崩れるな」

Aが歩く夜蛾を目で追う。
ともあれ、と夜蛾は向き直った。

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