656:それじゃあ、また今度 ページ10
『A。お前は、その夢を今後この先も見続ける度に、俺に電話でもしたいのか?』
「……世間話だけで終わりたいわよ」
彼女にしては頼りない声が通話口から返ってきて、『だろうな』と短く息つきながらカイトは返した。
『なんでも一人で背負おうとするな』
「…それ、どうやって辞めるの?」
力無い声でそう返ってきた時には、あぁそうだったとカイトは通話口の裏で額を抑えた。
完璧で弱さを他人に見せることのないよう育てられてきた、暗殺一家の長女。
故に、彼女は自分を解放させることが驚くほど不得意だ。
というよりも、その手段を知らない。
『お前のせいじゃない。なんて、よりお前の罪悪感を責め立てるようなことは言わない。そういう乗り越え方をしろなんて残酷なことは言わないさ。だから、一つの療法としての提案だ。時間をかけてでもいい。一気に話せとは言わない。例の好きな人という奴に、時間をかけて話してみろ』
「さっきそれは出来ないって私言わなかった?」
『出来ないと決めつけるのはらしくないな』
バッサリとカイトは切り捨てる。
Aは不服そうに唇を尖らせた。それを察したのか、カイトは通話口でフッと笑うと言葉を続けた。
『出来る出来ないじゃない、やるのよ。ってのが、Aだと俺は思ってるんだが』
「…うるせー」
Aがそう零すと、カイトは声をあげて笑った。
昔の調子に戻った彼女の姿は、一応いつもの調子に戻ろうとしているということなのだろう。
『少なくとも、俺が“過去の出来事”を聞いた時、お前を奇怪な目で見たと思っていないし、お前への接し方が変わったとも思っていないが?』
「それはカイトだからだろ」
『Aが好きな相手は、俺に負けるレベルなのか?』
「…カイトに負けてるなら、お前に来ないかと誘われた時点で行ってる」
『だよな』
昔の口調にまた戻ってるぞ。
カイトは付け足し、『まぁ、なんだ』と言葉を続けた。
『挑戦して、全部ダメだったら俺の手伝いをしてくれ。一ヶ月だろうが二ヶ月だろうが、その時は特別にお前のウジウジした失恋話に付き合ってやるさ』
なんじゃそれは。
Aは思ったが、確かにカイトの言う通りだとも思っていた。
出来る出来ないじゃない、やるのよ。
Aはドラム缶の上から降りる。
『それじゃあ、またな』
「カイト、」
『ん?』
ありがとう。
いや、それはまだか。
「ううん。上手くいったら、また電話する」
気づくと、辺りは明るくなっていた。
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鼻毛太郎(プロフ) - めもめもさん» コメントありがとうございます!😭ここからはしっかりゾル家姉にも働いてもらって……と考えています!ぜひ、活躍お見逃し無く楽しんで頂ければ幸いです!🤍 (3月31日 10時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
めもめも - つづき気になりすぎてやばいです笑早く読みたいです✨ (3月31日 0時) (レス) @page38 id: 4f69df3854 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - あめみやさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!!😭🙌原作があるところまでとはなりますが、長々と続けていきますので是非以降もお楽しみください🤍 (3月21日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 今までで読んできた中で一番良い作品でした!これからも更新楽しみにしてます! (3月21日 15時) (レス) @page36 id: ca00368d0e (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - マニ。さん» コメントありがとうございます。返信させて頂きましたので、そちらご参照頂けますと大変助かります。 (2月18日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2024年1月23日 17時