検索窓
今日:99 hit、昨日:33 hit、合計:30,038 hit

656:それじゃあ、また今度 ページ10

『A。お前は、その夢を今後この先も見続ける度に、俺に電話でもしたいのか?』

「……世間話だけで終わりたいわよ」

彼女にしては頼りない声が通話口から返ってきて、『だろうな』と短く息つきながらカイトは返した。

『なんでも一人で背負おうとするな』

「…それ、どうやって辞めるの?」

力無い声でそう返ってきた時には、あぁそうだったとカイトは通話口の裏で額を抑えた。
完璧で弱さを他人に見せることのないよう育てられてきた、暗殺一家の長女。
故に、彼女は自分を解放させることが驚くほど不得意だ。

というよりも、その手段を知らない。

『お前のせいじゃない。なんて、よりお前の罪悪感を責め立てるようなことは言わない。そういう乗り越え方をしろなんて残酷なことは言わないさ。だから、一つの療法としての提案だ。時間をかけてでもいい。一気に話せとは言わない。例の好きな人という奴に、時間をかけて話してみろ』

「さっきそれは出来ないって私言わなかった?」

『出来ないと決めつけるのはらしくないな』

バッサリとカイトは切り捨てる。
Aは不服そうに唇を尖らせた。それを察したのか、カイトは通話口でフッと笑うと言葉を続けた。

『出来る出来ないじゃない、やるのよ。ってのが、Aだと俺は思ってるんだが』

「…うるせー」

Aがそう零すと、カイトは声をあげて笑った。
昔の調子に戻った彼女の姿は、一応いつもの調子に戻ろうとしているということなのだろう。

『少なくとも、俺が“過去の出来事”を聞いた時、お前を奇怪な目で見たと思っていないし、お前への接し方が変わったとも思っていないが?』

「それはカイトだからだろ」

『Aが好きな相手は、俺に負けるレベルなのか?』

「…カイトに負けてるなら、お前に来ないかと誘われた時点で行ってる」

『だよな』

昔の口調にまた戻ってるぞ。
カイトは付け足し、『まぁ、なんだ』と言葉を続けた。

『挑戦して、全部ダメだったら俺の手伝いをしてくれ。一ヶ月だろうが二ヶ月だろうが、その時は特別にお前のウジウジした失恋話に付き合ってやるさ』

なんじゃそれは。
Aは思ったが、確かにカイトの言う通りだとも思っていた。

出来る出来ないじゃない、やるのよ。

Aはドラム缶の上から降りる。

『それじゃあ、またな』

「カイト、」

『ん?』

ありがとう。
いや、それはまだか。

「ううん。上手くいったら、また電話する」



気づくと、辺りは明るくなっていた。

657:言えない→←655:疾患



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (112 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1218人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

鼻毛太郎(プロフ) - めもめもさん» コメントありがとうございます!😭ここからはしっかりゾル家姉にも働いてもらって……と考えています!ぜひ、活躍お見逃し無く楽しんで頂ければ幸いです!🤍 (3月31日 10時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
めもめも - つづき気になりすぎてやばいです笑早く読みたいです✨ (3月31日 0時) (レス) @page38 id: 4f69df3854 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - あめみやさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!!😭🙌原作があるところまでとはなりますが、長々と続けていきますので是非以降もお楽しみください🤍 (3月21日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 今までで読んできた中で一番良い作品でした!これからも更新楽しみにしてます! (3月21日 15時) (レス) @page36 id: ca00368d0e (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - マニ。さん» コメントありがとうございます。返信させて頂きましたので、そちらご参照頂けますと大変助かります。 (2月18日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2024年1月23日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。