655：疾患 ページ9
話すと、また夢の内容を鮮明に思い出してしまいそうであった。
Aは、あまり思い出さないよう固く目を瞑りゆっくりと開く。
大丈夫だ、目を開けても自分はちゃんと現実にいる。
廃ビル群と徐々に光を帯び出す世界。
大丈夫。変わっていない。
『結局、何年経ってもお前の悪夢の原因は分からないな。これで十二年は見続けていることになる』
治るどころか、その悪夢は悪化しているときた。
『……話してないのか。その夢について』
Aの言う好きな人に。
Aは、通話口に向かってか細く相槌を返す。
「…過去のことも話したことない」
『なぜ？お前が一歩的に好きな相手なのか？』
「いいえ。寧ろ、私よりも私のことを好いてるぐらい」
なんだその自信は。カイトから返ってきたものの、自分の元ストーカーだからなど話せるはずがない。
Aは曖昧に「まぁ、私だけが好きってわけではないってことよ」と適当に返しておく。
カイトもなんとなく納得してくれたのか、曖昧に相槌を打つと『だったら、尚更話しても問題ないだろ』と言葉を続けた。
『どうして話さない？』
釣竿が水面から引き上がった音が鳴る。
その後、釣竿の音が続くことはなかった。
Aを責めたり、心から面倒臭がったりしないのがカイトの優しいところだ。
彼はドライな性格でいて、内にそういう優しさや面倒見の良さがあるのをAは知っている。
Aは、少しだけ下唇を噛んで重々しく言葉を吐き出した。
「…弱みを話すのが、怖い」
ドラム缶に、Aは軽々と登り腰を下ろす。
体はこんなにも身軽なのに、心だけはずっと重い。
『…誰もお前の寝首を掻くわけじゃないさ』
「分かってる…。怖いところは、そこじゃないの。……“あの出来事”が、私の全てだから」
好きな人に全てを見せることほど、怖いことってないでしょ。
Aは言った。
「あの日、父親の私を見る目が一瞬変わったの。あの誰よりも強い父親が、目に恐怖の色を浮かばせていたわ。…人じゃないものを見てた」
Aは両足を抱えた。
「見る目が一瞬で変わることに、私は耐えられる自信はない」
だから、話せない。
Aは言う。
『…だが、それでも日に日に悪夢は酷くなっていく。同じ悪夢を見続けるのは、立派な精神疾患だ』
「……」
カイトの言葉に、Aは何も返さなかった。
カイトの言う通りだからだ。その悪夢を見て、Aが普通の精神状態で過ごしているかと言われればそうではない。
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鼻毛太郎(プロフ) - めもめもさん» コメントありがとうございます！😭ここからはしっかりゾル家姉にも働いてもらって……と考えています！ぜひ、活躍お見逃し無く楽しんで頂ければ幸いです！🤍 (3月31日 10時) (
レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
めもめも - つづき気になりすぎてやばいです笑早く読みたいです✨ (3月31日 0時) (レス) @page38 id: 4f69df3854 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - あめみやさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！！😭🙌原作があるところまでとはなりますが、長々と続けていきますので是非以降もお楽しみください🤍 (3月21日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 今までで読んできた中で一番良い作品でした！これからも更新楽しみにしてます！ (3月21日 15時) (レス) @page36 id: ca00368d0e (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - マニ。さん» コメントありがとうございます。返信させて頂きましたので、そちらご参照頂けますと大変助かります。 (2月18日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鼻毛太郎
| 作成日時：2024年1月23日 17時
