654:好きな人 ページ8
『そこの奥地はまだ未開拓な部分が多いんだ。丁度人手は足りていない。Aレベルの人間が来てくれれば、かなり助かるんだが』
まぁ、家業はあるだろうけど。
カイトの付け足しに、再び釣り糸が水辺に落とされた音が着いてくる。
「…暗殺業は、その、休業中なの」
『そうか。なら、より一層暇人じゃないか』
「君、私をなんだと思ってるんだよ」
思わず、彼と出会った当初の口調が戻ってくる。
おっと、と片手で口を塞ぐのも遅く、出てしまったものは仕方ないとAはその先の言葉を続けた。
「確かに休業中だからフリーではあるんだけど、今友達の____、」
いや、違う。
毛先を指の先でくるくると巻いていたのをピタリと止める。
そうじゃない。
脳裏に浮かぶ、嫌味ったらしくも妖しく艶やかに笑う件の男の姿。なぜだか、浮かぶだけで心臓がぽかぽかする。
馬鹿みたいな表現だと自分でも思うのだが、本当にその表現以外当てはまらないのだ。
「好きな人の願い事…叶えてあげてる最中なの」
あーあつい。
Aは、パタパタと片手で顔を仰ぐ。
『はぁ、Aに好きな人』
面食らったのか、それとも馬鹿にしてるのか。
驚い交じりの相槌と共に、カイトは復唱した。
『あんなにジンさんにしか興味なかったAが』
「そう」
恐らくカイトは茶化したつもりだったのだろうが、Aから返ってきた言葉があまりにも意外で、本当に会話してるのはAか? とカイトは通話口の向こうで、耳から携帯を離し液晶を凝視してしまう。
「だからその…貴方の誘いは嬉しいけど、行けない」
くるん。
指先から髪が解けて、宙でゆるりと跳ねた。
カイトは、Aの言葉に『そうか…』と意味深に相槌を打つと、そのまま言葉を切り出した。
『なら、その好きな人とかいう奴に慰めてもらった方がいいんじゃないのか?』
その言葉に、今度はAが耳から携帯を離し液晶を凝視する番になる。
『また見たんだろ。夢』
「なんで、」
『そりゃあ、お前が電話をかけてくる時は何時だって悪い夢を見た時だけだからな』
世間話はいつも最初だけで、あとは俺が夢の話を聞くばかり。カイトの言葉で、Aは漸く二年前何故彼に電話を掛けたのかを思い出した。
そうだ。
あの時も、夢を見たからだ。
『お前のその夢。昔はもっと頻繁に見てたよな』
「…ここの所、よく見るのよね。頻度は昔ほどじゃ無いけれど、昔より凄く鮮明な夢に変わっていってる」
Aは額を抑える。
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鼻毛太郎(プロフ) - めもめもさん» コメントありがとうございます!😭ここからはしっかりゾル家姉にも働いてもらって……と考えています!ぜひ、活躍お見逃し無く楽しんで頂ければ幸いです!🤍 (3月31日 10時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
めもめも - つづき気になりすぎてやばいです笑早く読みたいです✨ (3月31日 0時) (レス) @page38 id: 4f69df3854 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - あめみやさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!!😭🙌原作があるところまでとはなりますが、長々と続けていきますので是非以降もお楽しみください🤍 (3月21日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 今までで読んできた中で一番良い作品でした!これからも更新楽しみにしてます! (3月21日 15時) (レス) @page36 id: ca00368d0e (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - マニ。さん» コメントありがとうございます。返信させて頂きましたので、そちらご参照頂けますと大変助かります。 (2月18日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2024年1月23日 17時