689：聞こえますか ページ43
＿＿＿＿＿＿。
中々やまないな。
「雨…」
濡れた路面や建物の壁に、数多の光が乱反射を繰り返す。
ヨークシンシティは、帰宅ラッシュを迎えていた。
バイクを“失敬“し、颯爽と走らせたAもそのラッシュに巻き込まれ、足止めを喰らっていた。
「表は渋滞が酷いと思って裏道に入ったけど、あんまり変わらなかったな…」
Aは、ため息をつきながらバイクのハンドルに腕を乗せて凭れる。
旅団の面々は目的地についただろうか。
コルトピが作った緋の目の模倣品を追って、彼らはベーチタクルホテルへ向かった。
恐らくだが、すでにそこにはクラピカは居ないだろう。
Aが、なぜそう結論づけているかというと、それは紛れもなく旅団を尾行するキルアの存在があったからだ。
キルは、一度命の危険が及んだ失敗を、二度も繰り返せるような子じゃない…。
自分の独断ではなく、チームでやっているからこそキルは失敗した尾行をもう一度やっている。
その事実が、Aにとっては嬉しくもあり、同時にこの旅団とクラピカ達が互いに互いを目指しているという構図が厄介でもあった。
「どう動くかが予想できないな。渋滞回避にバイクを乗り捨ててもいいけど、不測の事態になったら結局乗り物の方が早いしなぁ」
Aは困ったと眉を寄せる。
ふと、渋滞と都会の喧騒の中で、Aの耳に啜り泣く声が入り込んできた。
その音は、Aの耳にはやけに浮いて聞こえ、どこから聞こえるのかと音の現場を瞳で捉えた途端に、喧騒の全てに膜でも張られているよう音が薄くなった。
「…誰か亡くなったのか」
教会。
裏道で、表通りからはかなり離れているとはいえ、そこに佇む教会の姿は厳かでいて神秘的で、街の中からそこだけ別の空間を引っ張ってきたような異様さがあった。
喪服の人々と、黒い傘達。
丁度、棺桶を運び出す瞬間であった。
啜り泣く人々。
きっと、そこに居る誰もが、故人のことを想っている。
だけど、その人はそこにいない。
聞こえているのだろうか。
届いているのだろうか。
「…」
クロロは、ウボォーギンに伝えられたのだろうか。
Aは、教会から目を逸らした。
昔、父親に言われた言葉を思い出す。
幼少期、任務後に墓地の横を通ったことがある。
そこでは丁度、故人を埋葬する最中だった。
考えるな、A。
父は、Aにそう一言告げた。
「…考えるな」
Aは、ひとり呟く。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1218人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鼻毛太郎(プロフ) - めもめもさん» コメントありがとうございます！😭ここからはしっかりゾル家姉にも働いてもらって……と考えています！ぜひ、活躍お見逃し無く楽しんで頂ければ幸いです！🤍 (3月31日 10時) (
レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
めもめも - つづき気になりすぎてやばいです笑早く読みたいです✨ (3月31日 0時) (レス) @page38 id: 4f69df3854 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - あめみやさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！！😭🙌原作があるところまでとはなりますが、長々と続けていきますので是非以降もお楽しみください🤍 (3月21日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 今までで読んできた中で一番良い作品でした！これからも更新楽しみにしてます！ (3月21日 15時) (レス) @page36 id: ca00368d0e (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - マニ。さん» コメントありがとうございます。返信させて頂きましたので、そちらご参照頂けますと大変助かります。 (2月18日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鼻毛太郎
| 作成日時：2024年1月23日 17時
