667：なんて事ない時間 ページ21
「…ゲロ臭かったでしょ」
「ゲロまみれの君を一度店から運んだことあるから、特に気にならなかったよ♢」
当たり前のように返ってきたヒソカの言葉を聞きながら、Aはペットボトルの水を含み『最低な女だな』と思わず苦笑いを浮かべる。
「クロロが、君が戻ってくるまで休憩にするってさ。彼、今読んでる本の続きが読みたいから、戻ってくるのが遅ければ遅いほど好都合だって♤」
雨音を聞きながら述べるヒソカ。
クロロなりの気遣いが、それとも本心から言っているのか。Aは、ペットボトルの口に視線を落とし「うん…ありがと」と返した。
「リンゴ持ってきたから、ナイフ貸してくれる？」
「うん」
Aは短く頷いて、差し出してきたヒソカの手に使っているナイフを渡す。
ヒソカは受け取ると、器用にリンゴの皮を剥き始めた。
しとしとと降り頻る雨。
時折雷鳴が轟くも、ビルの壁に音を吸い込まれ随分遠くの出来事のように思えた。
涙はだいぶ乾いたが、それでも雨の音の中でAの鼻を啜る音が時折響いた。
リンゴを剥く音と鼻を啜る音。雨音。遠くの雷鳴。
「ねぇ、」
「んー？」
環境音だけが二人の間を埋める中、Aの声が薄暗い室内に響いた。
間延びしたヒソカの声が返事をする。途切れないリンゴを剥く音。
「聞かないの？」
「聞いて欲しいの？」
しゃり、しゃり。
音の中、ヒソカはいつもと変わらない調子で言葉を返した。
それ以上言葉を返さないAに、ヒソカは察する。
Aは、いま言葉を選ぼうとしてるんだなと。
「三回♢」
「…？」
「ハンター試験から数えると、ボクは三回君が魘されているところを見てる♢」
ヒソカの言葉に、Aが微かに瞳を揺らした。
「一度目は、ハンター試験の時。軍艦島の初日に、ホテルで泊まった時だよ♢ ボクがシャワー借りたの覚えてる？」
その時ね。
ヒソカは言った。
「二度目は、ヨークシンへ来る飛行船の時。あの時は、流石に覚えてるよね♧ あの時は、悪い夢を見たのか聞くと『よく思い出せない』って君は返した♢」
そして。
「三度目は今日。朝のことだよ。本当は、君が魘されていたのを知っていた♢」
だから、本当は今朝出ていったのも、なんでなのか分かってる。
いつも通りの調子でヒソカは言葉を続けた。
「言いたくないことの一つや二つあるだろ？ 君が自分から話すまで、元々聞かないつもりだったんだ♢今、やっとその時期が来たのかな…と思ってる♤」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1218人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鼻毛太郎(プロフ) - めもめもさん» コメントありがとうございます！😭ここからはしっかりゾル家姉にも働いてもらって……と考えています！ぜひ、活躍お見逃し無く楽しんで頂ければ幸いです！🤍 (3月31日 10時) (
レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
めもめも - つづき気になりすぎてやばいです笑早く読みたいです✨ (3月31日 0時) (レス) @page38 id: 4f69df3854 (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - あめみやさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！！😭🙌原作があるところまでとはなりますが、長々と続けていきますので是非以降もお楽しみください🤍 (3月21日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 今までで読んできた中で一番良い作品でした！これからも更新楽しみにしてます！ (3月21日 15時) (レス) @page36 id: ca00368d0e (このIDを非表示/違反報告)
鼻毛太郎(プロフ) - マニ。さん» コメントありがとうございます。返信させて頂きましたので、そちらご参照頂けますと大変助かります。 (2月18日 16時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鼻毛太郎
| 作成日時：2024年1月23日 17時
