【呪術廻戦】ギャルと呪術-12-

560：ギャルとラキスト ページ10

昔から、Aという人間は親やすすぎるのと同時に、時折、底知れなさを感じさせる時がある。
一体、この人はどこまでこの騒動について掴んでいるのだろう。

家入は、Aの横顔を視界の端で捉えながら「そうですか」と相槌を返した。

「ま、あんまりモタモタしてると、獄門疆の中で悟が寂しくて泣いちまうだろうからなぁ。ちょっと、急いでやろっかな」

くく、と口の端を吊り上げて、意地の悪そうな笑みを見せるAに家入も思わず吊られて笑ってしまう。

「確かに。アイツ、結構うるさいですよ。そういうの」

家入の言葉に、Aは「だよねぇ」と相槌を打つ。
家入が思うよりも、Aの精神は安定していそうだった。
自分が釘を刺さなくとも、無理はするが無茶はしなさそうだなと家入は思い直した。

本当は、夜蛾に「Aは、硝子の言うことなら少しは聞いてくれるだろうから、アイツに釘刺しに言ってくれ」と言われ送り込まれてきたなんて口が裂けても言えない。
夜蛾先生、A先輩は先生が思うほど、もう子供じゃないですよ。

煙草が美味いな、と家入はふと思う。

「A先輩って、昔から銘柄変わらないですよね」

ラッキーストライク。

家入の言葉に、「あー、そうねぇ」と相槌をしながらまじまじと自分が吸っていた煙草を眺めるA。

「変えようかな、みたいな時とかなかったんですか？」

なんて事のない家入の問いに、Aは少しだけはにかんで答えた。

「なかったね。こいつは、私の指標みたいなもんだからね」

「指標」

家入は復唱する。

「…昔、世話になってた人がいてさ。元々フラフラしてる人ではあったんだけど、その人が別れの餞別で煙草一箱置いてったんだよ。なんか、今思うとすげぇ寂しくて悲しかったはずなのに、その煙草のおかげで『未成年だぞこっちは』ってそんな気持ち全部吹っ飛んで笑っちまったんだよね」

Aが自分の昔話をするのはとても珍しい事だった。
長いことAと付き合いがあるが、ここまで詳細なのは初めてかもしれない。
思わず、相槌を打つこともなく聞き入ってしまう。

「それから、誰かを送り出す時ってこれ吸って見送ることにしてんだ」

ま、誰かを見送る機会ってそうないけどね。Aは笑って付け足すと、遠くをどこか懐かしむように見つめた。

「上手く悠仁の事送りだせたかな、私」

家入は返す。

「完璧でした」

優しく笑って。
A先輩らしいな、そういうところ。と＿＿＿＿＿。

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