・ ページ45
・
「持ってくもの、あるかな」
「身分証だけで大丈夫だよ。イヤーマフも持っていこうね」
支度をしながらもまた不安の波がやってきたのか、腕を握りしめて涙を流す。
「大丈夫、大丈夫。時間あるかね。ゆっくり深呼吸して」
何度でも止まって、背中を摩って落ち着くのを待つ。川島自身、待つことは得意だし、忍耐もある方だと思う。松倉の世話を全く負担だとは感じなかった。
「のえる、、ど、しよ、、」
「大丈夫大丈夫。一緒にいるよ」
「も、やだぁ、、」
嫌だ嫌だと首を振る松倉を抱きしめてスケジュールを計算する。玄関でも止まることを考えるとそろそろ部屋から出したい。
「そろそろ行こうね」
泣いてはいるが、手を引いて部屋から出す。そしてそのまま玄関に座らせた。
「靴履ける?」
松田が出しておいてくれた靴を履いて、手を引いて松倉を立たせる。思いの外スムーズに玄関を出ることができた。
「いってきまーす」
リビングに声をかけて、震える松倉の手を握りしめた。
「あ、きたきた」
ずいぶん車で待っていてくれた七五三掛と宮近に手を振り、車に乗せる。松倉は宮近の隣に座った。
「出るよ」
暫く外を眺めていたが、庁舎が近づくとまた身体が震えてしまい、宮近がその背中を摩っていた。
「車、降りるよ」
動こうとしない松倉に声をかけて手を引く。それでも立ち上がれない松倉に、宮近が声をかけた。
「松倉、大丈夫だよ。誰もお前のこと加害者とか、犯罪者とか思ってない。お前は被害者なんだよ。だから、大丈夫。いままで嫌だったこととか、怖かったこととか、思い出したこと全部ぶちまけてこいよ。泣いても、怒ってもいいんだから。嫌なことされたんだから、怒っていいんだよ」
そう言いながら松倉が立ち上がれるように背中を押す。そして最後に、迎えにくるからね、一緒に帰ろうな、と付け加えた。
「大丈夫だよ。ゆっくり、深呼吸」
宮近の言葉でなんとか立ち上がったものの、待合室でまた苦しくなってしまい、顔にタオルを押しつけて必死に深呼吸を繰り返している。
「の、える、、」
「ん?」
「イヤーマフ、、しようかな、で、も、」
「いいよいいよ。周りのことは俺が見てるから大丈夫。戦闘要員じゃないけど、組織の人間だから、一般人よりは強いと思うし」
そういうと少しだけ表情を緩めて、自らイヤーマフをつけ、身体を川島にピッタリとくっつけた。それでもタオルを握りしめた手は震えていて、目線を上げることはなかった。
122人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「TravisJapan」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イカ(プロフ) - ナツメ様:コメントありがとうございます。あたたかいおことば、、嬉しいです!!今後もよろしくお願い致します。 (2022年5月4日 9時) (レス) id: bba6564774 (このIDを非表示/違反報告)
ナツメ(プロフ) - 初めまして!以前からイカ様の作品を拝読していました。今作も素晴らしいです!本当におもしろくて神って実在したんだなって本気で思いました。筆も早くて尊敬します。これからも頑張ってください! (2022年5月3日 22時) (レス) @page9 id: 8dc454fb00 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:イカ | 作成日時:2022年5月3日 17時