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「持ってくもの、あるかな」

「身分証だけで大丈夫だよ。イヤーマフも持っていこうね」

支度をしながらもまた不安の波がやってきたのか、腕を握りしめて涙を流す。

「大丈夫、大丈夫。時間あるかね。ゆっくり深呼吸して」

何度でも止まって、背中を摩って落ち着くのを待つ。川島自身、待つことは得意だし、忍耐もある方だと思う。松倉の世話を全く負担だとは感じなかった。

「のえる、、ど、しよ、、」

「大丈夫大丈夫。一緒にいるよ」

「も、やだぁ、、」

嫌だ嫌だと首を振る松倉を抱きしめてスケジュールを計算する。玄関でも止まることを考えるとそろそろ部屋から出したい。

「そろそろ行こうね」

泣いてはいるが、手を引いて部屋から出す。そしてそのまま玄関に座らせた。

「靴履ける?」

松田が出しておいてくれた靴を履いて、手を引いて松倉を立たせる。思いの外スムーズに玄関を出ることができた。

「いってきまーす」

リビングに声をかけて、震える松倉の手を握りしめた。





「あ、きたきた」

ずいぶん車で待っていてくれた七五三掛と宮近に手を振り、車に乗せる。松倉は宮近の隣に座った。

「出るよ」

暫く外を眺めていたが、庁舎が近づくとまた身体が震えてしまい、宮近がその背中を摩っていた。

「車、降りるよ」

動こうとしない松倉に声をかけて手を引く。それでも立ち上がれない松倉に、宮近が声をかけた。

「松倉、大丈夫だよ。誰もお前のこと加害者とか、犯罪者とか思ってない。お前は被害者なんだよ。だから、大丈夫。いままで嫌だったこととか、怖かったこととか、思い出したこと全部ぶちまけてこいよ。泣いても、怒ってもいいんだから。嫌なことされたんだから、怒っていいんだよ」

そう言いながら松倉が立ち上がれるように背中を押す。そして最後に、迎えにくるからね、一緒に帰ろうな、と付け加えた。



「大丈夫だよ。ゆっくり、深呼吸」

宮近の言葉でなんとか立ち上がったものの、待合室でまた苦しくなってしまい、顔にタオルを押しつけて必死に深呼吸を繰り返している。

「の、える、、」

「ん?」

「イヤーマフ、、しようかな、で、も、」

「いいよいいよ。周りのことは俺が見てるから大丈夫。戦闘要員じゃないけど、組織の人間だから、一般人よりは強いと思うし」

そういうと少しだけ表情を緩めて、自らイヤーマフをつけ、身体を川島にピッタリとくっつけた。それでもタオルを握りしめた手は震えていて、目線を上げることはなかった。

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イカ(プロフ) - ナツメ様:コメントありがとうございます。あたたかいおことば、、嬉しいです!!今後もよろしくお願い致します。 (2022年5月4日 9時) (レス) id: bba6564774 (このIDを非表示/違反報告)
ナツメ(プロフ) - 初めまして!以前からイカ様の作品を拝読していました。今作も素晴らしいです!本当におもしろくて神って実在したんだなって本気で思いました。筆も早くて尊敬します。これからも頑張ってください! (2022年5月3日 22時) (レス) @page9 id: 8dc454fb00 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イカ | 作成日時:2022年5月3日 17時

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