・ ページ28
・
「こちらへどうぞ」
担当者が呼びにきて、検査室へ移動する。そこまでは川島に手を引かれてスムーズに移動できたが、ドアの前で動けなくなってしまった。
「松倉?」
「ご、め、ん、、」
涙を溜めた松倉の表情を見て、担当者に少し待ってもらうように伝える。松倉の状態については伝えてあるので、快く受け入れてくれた。
「ごめん、なさい、」
「松倉、大丈夫。待ってくれるって。落ち着いてから入ろう」
怖くて震えてしまう手を、自ら握りしめる。その緊張を解くように背中を摩った。
「ご、めん、、たぶん、、むり、だから、、手、ひっぱって」
「大丈夫?」
「うん、、頑張らなきゃ、」
スッと息を吸い込んだ松倉の腕を引くと、ストンと部屋の中に入ることができた。
「偉い偉い。頑張ったね」
目に涙を溜めたまま、検査官の向かいに座る。
「お名前をお願いします」
「松倉、、海斗、です、」
「身分証の提示をお願いします」
頭の中が恐怖でいっぱいの松倉は、その言葉に応じることができない。
「松倉、ID出して?持ってきたよね」
川島がバッグを叩きながら伝えると、焦ったように動き出して組織のIDカードを提示する。
「コピーを取らせてくださいね」
その言葉に頷いて、必死に心を落ち着けようと深呼吸を繰り返す。
「ありがとうございました。しまっていただいて大丈夫ですよ」
頷いて、IDを鞄に戻す。綺麗に整頓されたバッグは、松倉の繊細な性格を表しているようだった。
「それでは、DNA鑑定のため、頬の内側の粘膜を採取しますね。綿棒でちょっと擦るだけなので、痛くないですよ」
「松倉、口あけて」
検査官の手が肩に触れるとビクッと身体を揺らして、身を固める。
「ごめんね、びっくりさせちゃった。大丈夫、すぐ終わるからね」
優しい言葉も受け入れられずに、ボロボロと涙が溢れる。終わりです、と声がかかると頭を抱えて、ごめんなさい、と繰り返した。
「ありがとうございました」
川島が代わりに挨拶をして、松倉を控え室に連れて行く。様子を見ていた担当者が、検査中に部屋を用意してくれていた。
「落ち着くまでここを使ってくださいね。そのまま帰っていただいて大丈夫です」
122人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「TravisJapan」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イカ(プロフ) - ナツメ様:コメントありがとうございます。あたたかいおことば、、嬉しいです!!今後もよろしくお願い致します。 (2022年5月4日 9時) (レス) id: bba6564774 (このIDを非表示/違反報告)
ナツメ(プロフ) - 初めまして!以前からイカ様の作品を拝読していました。今作も素晴らしいです!本当におもしろくて神って実在したんだなって本気で思いました。筆も早くて尊敬します。これからも頑張ってください! (2022年5月3日 22時) (レス) @page9 id: 8dc454fb00 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:イカ | 作成日時:2022年5月3日 17時