釣り 前編 ページ5
日曜日の朝、僕は竜兄の自転車の後ろに乗って、少し離れた港に釣りに出かけた。
竜兄の背中は少し大きく、温かい感じがして、思わず頬ずりした。竜兄は構わず自転車を漕ぐ。
心地よい風が吹いている中で、少し離れた港についた。その港は、お世辞にも大きいとは言わない小さめの港ではあったが、釣り人がまばらに散って釣りをしていた。
僕は、竜兄の背中をついていき、防波堤の先端、灯台があるところにつき、竜兄が仕掛けを作る姿を眺めていた。糸を垂らし、浮きをつけて、おもりをつけて、針をつけて、餌をつける。僕の分ができると、「ん。」と言って渡してきた。
僕は、水面に向かって餌を投げ入れる。浮きがぷかぷか浮いている。竜兄は、自分の仕掛けをこさえている。静かな時間が流れている。当たりがないので、仕掛けを上げると餌がなくなっていた
。取られたのだろう。僕はエビを付け直すと、また水面に向かって仕掛けを入れた。
僕は、座って浮きを見ていた。横を向くと竜兄も座って浮きを見ている。ほとんど音が聞こえない
。聞こえるのは波の音、カモメの鳴き声ぐらいなものだった。と竜兄が、こんなことを言った。
「ソラ、昔、ここにいろんな漂流物が流れてきたんだ。」
「どんな?」僕は訊きかえす。
「木とか、ゴミとか。」竜兄が言った。
「ふーん。」「でな、変わったものも流れてきたんだ。」
「どんな物?」「人の形をした木だな。」
竜兄が、真面目な口調で言う。「昔そんなものが流れてくると、祭壇を作って祭ったりするんだ。人型様って言ったりしてな。遠い国から流れてきた神様だと思ってな。」
竜兄が淡々としゃべる。僕は静かに聞いている。「だけどな、異国から流れてきたものは、よくないものが多い。その人型様もよくないものの一部だった。」
「悪い霊みたいな?」「1体の霊じゃなく、複数の霊体の塊って感じだったな。」
「見てきたの?」「昔な。今はないけど。」
「何で?」「俺が壊してきた。」
そう言って欠伸を一つした。壊してきたという答えにいまいちピンとこなかった僕は、
「どうやって?」と訊くと、「話せば長くなるんだが。」と頭をポリポリ掻いた。僕は、「話して
、話して。」とせがんだ。と竜兄が、「そうだな、今からだいたい、6年前。俺が高校生だった頃の話になる。昔は、そこまで車が走っていなくてな。自転車か、徒歩で移動する人が多かったんだよ。俺が下宿先の家、ほら、前にあった金髪の神主見習いの家にいた時の話だ。」
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吉 - いいお話だと思います。新しい小説書くの頑張ってください (2016年11月12日 13時) (レス) id: f92c98848b (このIDを非表示/違反報告)
夜行 - 更新ありがとうございます。不思議な気持ちになるお話ですよね。 (2016年9月7日 17時) (レス) id: 689b4df6a4 (このIDを非表示/違反報告)
餓鬼魂 - 少し切なくってくるシリーズですね。好きな作品のうちの一つですよ。応援します。 (2016年9月7日 17時) (レス) id: 689b4df6a4 (このIDを非表示/違反報告)
陣 - おもしろいですね。更新応援させていただきます。 (2016年9月6日 21時) (レス) id: 689b4df6a4 (このIDを非表示/違反報告)
夜行 - 書き方変えてきましたね。前よりも、読みやすくなったと思います。 (2016年8月16日 12時) (レス) id: cd7a83a97a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カニ x他1人 | 作成日時:2016年2月14日 15時