箱庭少女の孤高哀歌【瞬木隼人】Part12

#観念 ページ46

でもボールはゴールに入ってしまっていたし、どういう事かと疑問に思っていたら
不意に得点板の画面が切り替わり、先程のコーナーキックをしていた時のグラウンドの映像が映された。


その映像によると、先程弟さんが蹴ったボールは一瞬だけれども、僅かにフィールドから外れていたみたい。

サッカーのルールではラインを越えたらいけないから、さっきのシュートは無効になったようだ。



久坂「ふぅ…完全にやられたと思ったぜ」

真名部「ディフェンスも不意をつかれました」

野咲「運が良かったわね…！」

鉄角「運も実力の内だ！勢いは俺達にあるぜ！」

A「良かった……」



映像を見て皆もベンチの私もﾎｯと胸を撫で下ろす。
1点取られたら取り返すの大変だもん。今回は凄くラッキーだった。

でも1人だけ、冴えない表情をしている人がいた。


井吹君だ。


ゴールを奪われちゃったけれど、でもその不名誉が無しになるんだ。

井吹君らしく強がっても良い所だと思ってたんだけれど、井吹君は1人だけ曇った表情で佇んでいた。



……ふと、井吹君がこちらの方へ目を向けた。


否、彼は西園君に視線を送ったのだ。

何か意図があるのか、井吹君のアイコンタクトに西園君は小さく頷く。



一体何を語り合っているのか……

疑問に思っていると、前半の終わりを告げるホイッスルが鳴り響いた。



天馬「井吹、」



ハーフタイムに突入し、グラウンドで闘っていた皆がベンチへと戻って来る。

そうして最後に戻って来た井吹君をキャプテンは呼び止めると、井吹君はその場で立ち止まった。



天馬「…何か、言いたい事があるんじゃないのか？」



いつになく神妙な面持ちでそう告げるキャプテン。

すると井吹君は観念したかのように口角を上げ、空を仰いでこう吐いた。



井吹「…ああ。足を挫いた。
キャプテン、交代させてくれ」



……やっぱり井吹君、怪我してたんだ。

それなのに井吹君、前半はずっとボールを止め続けて…相当辛かっただろうな。


考えるだけで顔が歪んでしまう。
そういう痛い話は少し苦手だ。



それにしても、キーパーの交代となると控えの選手は1人しかいない。

キャプテンは視線を西園君に送ると、落ち着いた声で指名した。



天馬「そうか………

信助、頼む」

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