サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ4)

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耳を塞ぐ理由【ヒロト】ページ4

私は人の声が嫌いだ。

大が付く程、嫌い。

誰かが話し合ってる声も、誰かの噂をしている声も
笑ってる声も、ちょっとしたざわめきも、全部全部。

だから私はいつも、イヤホンで耳を塞ぐ。
そして私の大好きな音楽を大音量で聞いて、1日を過ごすのだ。

私の聞く音楽は流行りの曲だったり、もう忘れ去られたような曲だったり。
何処かで聞いた誰かが歌っている、好きな曲だ。

……え？さっきと矛盾してるって？
声が嫌いなのに声の入っている曲を聞いているのは可笑しいって？

そうかもね。でも、歌はいいの。
歌は違う。別だから。
歌っている声は好きなの。

「…」

学校。丁度帰りの挨拶を済ませて皆帰ろうかと疎らに教室を出て行く中
私だけはじっと自分の机に居座ったまま、すぐ横の窓際から空を眺める。

勿論、耳には私が愛用している白いイヤホンを付けて。

こんな私に話し掛けて来る子なんてほとんどいない。
入学当初はそれなりにいたものの、2年生にもなれば私の無愛想振りは学年中に知れ渡ったようで、全くと言っていいほど話し掛ける人はいなくなった。

別にそれでいい。人の声は嫌いだから。

「ねぇ、Aちゃんってばっ！」

……但し、例外はいるもので。

不意に右耳に流れていた音楽が遠ざかったと思ったら、次に少し苛立った様子の少年の声が聞こえた。

その声を聞いて誰だかすぐわかった私は、目だけ動かして彼の方を見遣り、睨みつける。

「あ、やっと気付いてくれた」

私の心情を知ってか知らずか、彼は私に向かって笑顔を向けると嬉しそうにそう言った。

「…何、基山？」

彼のその反応に私は眉を顰めると机に頬杖をついた。
基山は微笑みを絶やさずに返す。

「いや、一緒に帰ろうと思ってね」

「1人で帰れば？」

「そんな寂しい事言わないでよ」

「つか、いつもの騒がしいメンバーは？」

「先に帰っちゃった」

「…っそ」

苦笑して語る彼の話に私は思わず溜息を吐くと、私はおもむろに席から立ち、机のすぐ横に掛けてあったカバンを手に持った。

「帰るよ」

「…！うん！」

右耳のイヤホンを返して貰うと私はそれを耳に当てずにそのままぶら下げ、教室の外に出る。

基山も遅れて教室から出て来ると、私の右側を並んで歩き、微笑んだ。

『Aちゃん、時間あるし何処か行く？』

『静かな所なら何処でも』

アンタの声は、嫌いじゃない。