サッカーと大罪人とお好きな松とヒーローと【短編集】2 (ページ12)

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空いた席と百合の花【瞬木】ページ12

「…やっぱり、此処にいた」

夕暮れ、皆帰ったり部活に行ったりで教室にはほとんど誰もいないような、そんな時間

幼馴染みのAは今日もとある教室の窓側の席で突っ伏していた。

「あ、瞬木」

「あ、じゃねーよ。いつもこんな所で」

俺は教室の扉の前で溜息を吐くと、彼女はクスッと笑う。

でも、その表情は何処か疲れているような気がした。

「だって此処が好きなんだもん」

Aは笑いながら自分の座っている机を愛おしそうに撫で

そして顔を上げて、花瓶に活けられた百合の花を見つめる。

彼女が今座っている席は彼女の席ではない。

そこに座っていたのは傲慢ちきでムカつく野郎で
Aの想い人の、憎いヤツだった。

一ヶ月前に交通事故で亡くなって、以来彼女はいつも放課後は此処にいる。

「…帰るぞ、A」

じっと花を見つめるAの横顔を見るに耐えなくなって、俺は教室に入って彼女にそう言った。

だけど彼女は微動だにせず、静かに首を横に振った。

「もう少し」

「お前、そう言って前に先生に注意されたろ。
また怒られたいわけ？」

「別にいいよ。
だって瞬木も一緒に怒られてくれるもん」

「…」

俺は溜息を吐き、彼女の前の席の椅子に跨りAと向き合う。

Aは白い花の花弁を優しく指で撫で、俺とは目を合わせてくれない。

「…彼は前にね、私の頭を撫でてくれたんだ」

「うん」

「それにね、手を握ってくれたんだ」

「うん」

「あとね、私の話をいっぱい聞いてくれたの」

「…うん」

何度も聞いた、ヤツとの思い出話。
それに俺は相槌を打ちながら聞いてやる。

Aはその話をしている時だけは幸せそうな顔をしていて

俺には見せた事の無いような、満たされた顔をして。

……俺だって、お前の頭を散々撫でたじゃないか。

手だって、握ってやったじゃないか。

こうして話だって、聞いてやってるじゃないか。

それなのに何で

何でお前はもういなくなったソイツを望むんだ。

そんな事したって、辛いだけなのに。

馬鹿な女だ。

「…同情してくれてるの？」

話を聞きながら、俺は彼女の手をそっと握ってやる。

するとAはキョトンとした顔をして、やっと俺と目を合わせてくれた。

「…いいから、話を続けろ」

だけど今度は俺がそらして、ぶっきらぼうにそう言った。

…まぁ、こんな馬鹿な彼女を求める俺も

彼女に負けないぐらい馬鹿なんだけれども。