グノーシア短編集＊LOOP3＊ (ページ5)

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引いてダメなら【沙明】ページ5

・沙明が沙明じゃない

－－－

正直、沙明は苦手だ。

気安くベタベタ触れて来るし。
発言が完全に下ネタだし。
やたらベットに誘われるし。

セツが〝やってしまう〟のも分かる。
多分セツがやらなかったら私がやってた。

そんなんだから、なるべく沙明とは極力関わらないようにしている……はずなんだケド。
偶然なのか必然なのか、1人でフラフラしてるとすぐ見つかって絡まれる。よく居る娯楽室もあんま行かないようにしてるのに。

でも、ステラから借りたとある恋愛小説にこんな言葉があった。

『押してダメなら引いてみろ』

どんなにアプローチしても振り向いてくれない場合、一旦身を引いてみれば振り向いてくれるかもしれない、という。まぁ、一瞬の駆け引きってヤツだろう。

この言葉を知った時、こう思った。
〝この現象、沙明相手にも使えないだろうか〟

ただ、現状だと沙明がグイグイ来てて私が身を引いてる状態だから、この言葉と逆の事をすればいいんじゃないだろうか。

いつもと違う反応(アクション)を起こせば、少しは大人しくなってくれるかもしれない。

そう思った私は、早速次のループで実行する事にした。

－－－

「しゃ〜みん♡」

食堂にて。ジナの向かいの席で1人ベラベラ喋って(口説いて)る沙明を見つけ、私は実行する。

因みに初対面時に私に好意的だったのは確認済みだ。
そもそも沙明の場合、嫌われているループはほとんど無いのだが。

背後からそっと近付き、恋愛小説を元にギュッと彼に抱き着いた。声もSQを参考に可愛い声を精一杯作ってみた。

途端に沙明は口が止まり、ピタリと動きが止まる。
ジナも一瞬驚いた顔をして、私と目が合うと「A…？」と首を傾げた。

「やっほ、ジナ〜！ご飯中だった？ちょっとだけお邪魔しま〜す！」

「それは……構わない、けど……」

「よいしょっ、と」

ジナは戸惑ってるみたいでちょっと申し訳なかったけど、もうやってしまったモノはしょうがない。最後までやり切らねば。

ソファ席だったので私は沙明の隣に座り、ピッタリと彼に寄り添う。腕も組んでニッコリ笑うとジナはまた不思議そうな顔をして私を見た。

……沙明、今どんな顔してるんだろう？
なんか私の一手でずっと黙っちゃってるんだけど。いや時間が止まったみたいに動かないんだけど。

気にはなるけど、でも見たいかって言われたら何となく怖くて。

私はただ正面を向いてニコニコしてた。