グノーシア短編集＊LOOP3＊ (ページ21)

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『俺、知ってるんだ。グノーシアが誰なのか』

底を目指しながら、俺はおもむろに口を開く。

あぁ、でも陸の人間には言葉として伝わってないかな。

いや、そもそも聞く余裕なんてないだろう。
さっきまでガボガボ暴れてたヤツは、今度は口と鼻を手で覆って必死に息を止めていた。

『夜中にお前ともう1人……記憶喪失とかほざいてるヤツが、オトメの水槽の前にいる夢を見た』

朧気だが、確かに覚えてる。

空間転移が始まる直前。
沙明ともう1人の人間が、オトメの水槽の前で話してた。

そうして目が覚めた時には、オトメの水槽に彼女はいなかった。

夢、なんて言ったがきっとアレは夢じゃない。

夢じゃないなら、答えはひとつ。

夢じゃないなら、

『お前だろ。グノーシアはお前と、記憶喪失のあの人間…！

オトメを消したのはお前らだ！！
美しく優しい彼女を！！お前らはっ……！！』

底に着いたらヤツを床に叩き付け、首根っこ掴んで押さえ付ける。

もう息が保たないんだろうな。
藻掻く力さえないのか、抵抗はするものの先程より随分と弱々しかった。

最後にヤツと、目が合った。
赤い目(・・・)と目が合った。

ヤツは最期にほんの少しだけ、安堵したように目を解いて。

最後の息を吐き出すと、もう動かなくなった。

－－－

そう言えば、グノーシアって。

律儀に毎日1人ずつ消してるけど。
本当ならいつでも、何処でも、誰でも消せるんだっけ。

なら、どうして俺の事、消さなかったんだろう。

俺に触れれば、簡単に消せたはずなのに。
そうすれば、水面に上がって来れたはずなのに。

どうして俺の事、消してくれなかったんだろう。

そうすれば、また彼女に会えたかもしれないのに。