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『…………』
議論が終わり、水質管理室の傍らにあるプールの中へ。
1人、底の底で蹲り、ただただ時間が過ぎるのを待つ。
彼女のいないプールは酷く広くて。寂しくて。静かで。
この中にいたら狂いそうになる。
でも、だからって陸に上がるのは絶対にイヤで。
昨日の夜から、ずっと出ていなかった。
『……』
ふと、頭上に影が落ちる。
誰かがプールを覗いているんだ。
あぁ、そういやもう議論の時間過ぎてるのか。
なら俺を呼びに来たんだろう。
でも、もう。どうでも良くて。
無視しようとして。
ただ、気紛れに顔を上げてその人間を確認した瞬間。
ブワッと嫌な感情が噴き出して、頭がカーッと熱くなって。冷たい水の中のはずなのに、まるで熱湯の中に放り込まれたようで。
その感情のまま、俺は静かに水面から顔を出した。
「……よぉ、人魚サン?」
「…………」
……沙明だった。
沙明は俺が出て来ると驚いた反応を見せた後、たどたどしい口調でそう言って、引き攣った笑みを浮かべた。
「……何の用?」
「何の用、って……そりゃ分かるだろ?
たのしいタノシイ議論のお時間ですよ、お客さん?」
「お前だけ?」
「ンだよ?美女がお望みだったってかぁ?」
「………いや、」
どうせなら、
俺が何も言わずただ黙ってたら、ヤツはそこからベラベラと1人喋り始めた。
その耳障りな声を聞いていると、ふつふつと怒りが増して来る。「セツに脅されて来た」とか知らねーよ。何いい子ぶってんだよふざけんな。
なんでお前が未だ生き残ってて
オトメが消されなきゃいけないんだ。
「なァ、とりあえず形だけでイイから来てくれね?お前連れて来ないとセツにナニされるか……ナニならイイんだけどなぁ……」
「___もう、いいや」
この後はどうなってもいいや。
コイツさえいなくなれば、どうでもいい。
未だに1人でお喋りしてるヤツの足首を、俺は掴む。
ヤツは間抜けな声を上げた後、俺の手によってプールの中へと引きずり込まれた。
ガボガボと口から泡吐いて、何か訴える沙明。
苦しいだろう。陸の人間は水の中で息なんか出来ないから苦しいだろう。
暴れられたが、水かきもない人間が水の中で暴れた所で無駄。
俺はそのままプールの底まで泳いで行った。
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