グノーシア短編集＊LOOP3＊ (ページ11)

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だって見てしまった(・・・・・・)から。

あいつが……あいつが、遠くに行った所。
あいつが俺の所からいなくなる所。

……あぁ、ダメだな。やっぱツレーわ。

思わず目を伏せてしまうと、彼女は何を思ったのか。

ふと俺に背を向けた。

「……あの、さっきは怖がっちゃって……ごめんなさい。私、怖がりなので……びっくりしちゃって。

そのお詫び……と言ったら、変かも、だけど。
私の髪、好きなだけ触れていいよ」

……彼女なりの優しさだろう。
でも生憎、俺はあいつに触れた事はないんだ。
触られるの、嫌いだったからさ。

だが、こんな状況でそんなこと言うのも野暮な気がして。
俺はただ「ありがとな」と言って、彼女の髪に触れた。

「……そう言えばお前、名前は？」

「さっき自己紹介したんだけど……Aだよ」

「ははっ、悪ィな、覚えてなくて」

柔らかくて、あたたかい。
あいつも触れたら、こんな感じだったんだろうか？

あいつも人間だったら、こんな感じだったんだろうか？

……ガラにもなく、そんな事を考えてしまうくらいには。

この時だけは、人間も悪くねーなって。

そう思えてしまった。