ただかわいいって言われるだけの話【真名部陣一郎】 (ページ6)

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かわいい運動音痴ページ6

親衛隊まで出来るほどの人気者の彼女ですが、どうやら運動は苦手な様でした。

演劇部に所属している上、見た目は軽やかで如何にも得意そうに見えるのですが……
敢えて比べるのなら、そうですね。僕や皆帆くんと同等、と言ったところでしょうか？

体力もなく、身体も硬く、ドリブルだってぎこちなくて。いつも練習終わりは倒れるようにグラウンドの隅で崩れています。

そんな彼女に親衛隊とやらは幻滅して離れていくだろう。そうすれば静かに練習出来るだろう……と、最初は思っていましたが、彼女が出た試合の後、スタジアム入口で彼女を待っていた親衛隊は口を揃えて「頑張っている姿がカッコよかった」「転んでも起き上がって相手に食らいつく姿、とても素敵でした」と大絶賛。

その時の試合では彼女はほとんど活躍せず、鈍臭い一面ばかり披露していたはずなのに。

……アイドルや芸能人については僕はほとんど知りませんが、そういうもののファンとかも恐らくこんな感じなんでしょうね。

何をしても、何をやっても賞賛される。

僕とは全くの正反対の生き物。

きっと相容れる事がなくて、羨ましくて。

僕が欲しいモノを簡単に手に入れてヘラヘラしてるそんな彼女が、許せなくて。

－－－

「真名部くんって、どうしてAさんの事になると不機嫌になるの？」

いつも通り、食堂で昼食を取っていたら、一緒に食べていた皆帆くんに何の前触れもなくそんな事を問われました。

別に不機嫌になっているつもりはないのですが、聞き返したら「ほら、今も」と僕の顔を指差した。

「彼女の名前を出したら眉間に皺が寄って、あからさまに不機嫌じゃない」

「…………」

……どうやら僕は、彼女の話をすると知らず知らずの内に眉間に皺が寄るらしい。

言われて僕は眉間の皺を解しながら、皆帆くんの質問に答えた。

「……だってあの人、僕と会う度に『かわいい』って言ってくるんですよ」

「……？それが原因なの？」

「だって〝かわいい〟ですよ？〝カッコイイ〟じゃなく！仮にも僕は男で、もうかわいいと呼ばれる年頃でもありません。それなのに、毎日毎日……不機嫌にだってなりますよ」

そりゃあ僕は男性のアイドルや俳優さんのようなカッコ良さはないと思います。運動だってほとんどして来ませんでしたし、カッコイイ所はないかもしれません。

それでも、僕は男です。

〝かわいい〟と言われるよりも〝カッコイイ〟と言われたいと思うじゃないですか。