ただかわいいって言われるだけの話【真名部陣一郎】 (ページ19)

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かわいい名前ページ19

「へっ？名前？」

そうしたら彼女は一瞬、目を見開いて驚いたような顔をされた。

そうして何やらうんうんと唸り始め、僕は不安で堪らなかった。

やっぱり名前を尋ねるのは烏滸がましかったのでしょうか……？でも名前を知らないと呼ぶ時不便ですし……それに、知りたいですし。

だけど何か事情があって名前を教えたくない場合とかだったら申し訳ない……
それに最近は何かと物騒な世の中ですからね。
名前も個人情報ですし、選手とはいえ何も知らない人間にそれを教えるのに躊躇する気持ちは分からなくもありません。

そんな感じで自分に言い聞かせながらも、内心期待して返答を待っていると、彼女は僕の方に向き直る。

そうして、眉を下げてはにかむと、何処か照れくさそうに告げた。

「＿＿＿ハナ。
私の名前は、ハナって呼んで」

「ハナさん……」

彼女らしい、愛らしい名前だと思った。

思わず呟くと、彼女は目を丸く見張る。
そうして何故か「うぅーん……」と唸るので、何か失言をしたのかと思って慌てて謝った。

「す、すみません…！ぼ、僕、何か失礼な事を言ってしまいましたか…？」

「あ、いや！そういうワケじゃない…です！
えぇっと……ただ、ちょっと……呼び方……」

「よ、呼び方…？」

僕の呼び方が気に食わなかった…？
それとも名前を聞き間違えてしまったのでしょうか？

そう思って不安になって。僕は何がいけなかったのかと彼女に尋ねると、彼女は苦笑いを浮かべながら答えた。

「呼び方……ちゃん付けじゃ、ダメ、かな？」

「ち、ちゃん付け……？」

「ハナちゃん、って……呼んでほしいな、って」

「ハナ……ち、ちゃん……」

普段なら馴染みのない響きに僕は少し困惑する。

いつもは初対面だろうと親しい人だろうと、基本は〝さん付け〟で話していたから。

でも本人からのお願いだ。それは出来るだけ叶えてあげたい。

そう思った僕は少し戸惑いながらも、改めて彼女の名前を口にする。

「ハナ……ちゃん」

「…！」

「……で、いい……ですか？」

「＿＿＿うん！」

その時の、彼女の嬉しそうな顔と言ったら。

僕まで嬉しくなってしまうような。
そんな満面の笑みでした。