＊ ページ36
「怖かったなぁ、イヤだったなぁ。もう大丈夫だ、Aはなーんにも悪くない」
「しゃ、みん……？」
「大丈夫、大丈夫……大丈夫、だから。大丈夫……」
私の背に腕を回し、片手で私の頭を優しく撫でつける。撫でる度に「大丈夫」と呟く沙明の声は震えていた。
私はまだ呑み込めなくて。
血塗れの私を抱き締める沙明が、沙明が分からなくて。
でも安心して。あたたかくて。
私の事を分かってくれたような気がして。
自分が泣いてるのも忘れて、今だけはただ沙明の胸の中に顔を埋めた。
「……もうヘーキか？」
「……ううん。まだ、少し……」
「そうか……俺もずっとこうしてたいケド、グズグズしてもいられねェんだ」
「………うん………」
少しして私が幾分か落ち着くと、沙明はゆっくり私から離れた。
私は涙を腕で拭う。
そうだよね……その気はなかったとはいえ、人を殺してしまったんだ。罪は償わなくちゃいけない。
まだ頭の整理は出来てないけれど……覚悟は出来た。
だから、そのまま静かに沙明が通報するのを待っていたのだけど。
どうしてか沙明は端末を取り出さなかった。
それどころか、私が殺してしまった男の方に向かい、両足を持ち上げた。
「っちぇ、どうせなら美女の生足が良かったなァ……野郎の足なんざ触ってもなァんも嬉しくねっつの」
「し、沙明……？」
「あ、Aはその棒持ってついて来な。
……っと、その前に白衣変えた方がいいか。ンなスプラッタァな格好じゃ1番に怪しまれるぜ？」
「沙明…？な、何を……？」
「ナニって、見りゃわかンだろ？インぺーするんだよインぺー。ほら、分かったらそこの棚から新しい白衣取って着替えな」
「…………」
……思わず立ち尽くしてしまった。
沙明は最初、その事に小言を言っていたけれど、私の前を通る時に何かに気付いたのか、ふと立ち止まる。
じっと私の顔を見るので「ど、どうしたの…？」と尋ねると、沙明は白衣のポケットから綺麗に折り畳まれたハンカチを取り出し、私の頬を拭った。
「……ほら、これでいつも通りのべっぴんさん」
「あっ……」
「怖いんなら後は全部俺に任せてAは先に部屋戻ってな。なぁに、この沙明様に任せればノォプロブレム。何にも心配いらないからな。
こうして私達は互いに共犯者となったのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「短編集」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
＊IJu＊(プロフ) - ハムエッグさん» コメントありがとうございます！楽しんで頂けているようで嬉しいです(ㅅ´꒳` )これからも更新がんばります〜！ (2月7日 0時) (
レス) id: c0312d3eb1 (このIDを非表示/違反報告)
ハムエッグ(プロフ) - この作品好きすぎて一気見しちゃいました.....！！ (2月6日 16時) (レス) @page26 id: e9b251311b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
