△リボンが304こ▽ ページ13
「…………」
一瞬、質問の意味がわからなかった。
どうしてこんなタイミングで、と思った。
だがすぐ脳裏に浮かぶ光景。
入ってはいけないと言われていた2階の寝室での光景だ。
思い出して真名部は思わず視線を落とす。
ハッキリ見てはいない……見ないようにしていたが
あの部屋にあったのは死体だ。
しかも腐っている死体。
という事は、死んでから何週間も……下手したら何ヶ月もあそこにいたという事だ。
考えないようにしていたのに、彼女から思い出されるとは。
真名部は意を決すると、彼女に尋ねた。
「……あの、人……というか……
……あの人達は、誰なんですか？」
「私のパパとママ」
『死体』という言葉を使いたくなくて、でも『人』と呼ぶにはもう違うような気がして。
結果たどたどしい言葉で尋ねる真名部に対し、Aは即答で答えた。
パパとママ……予想していなかったわけではなかったが、やはり真名部は驚いた。
特に母親は彼女を置いて何処かに行ってしまったんだと思っていたから。
だが今思い返せば、やはり可笑しい所は幾つもあった。
母親の財布が家に置いてあったり、出掛けているはずなのに母親の靴が玄関に置いてあったり。
違和感を感じつつも、真名部も真名部でいつしか考えないようにしていた。
Aはおもむろに天井を見上げる。
そして何処か遠くを見るような目で続けた。
「パパ……本当のパパがいる頃はね、ママも普通のママだったんだ。
ママはパパが大好きで、私も2人が大好きだった。
でもパパが私を庇って車に轢かれて死んじゃってから、ママは変わっちゃったの」
淡々と、まるで機械のように語られる彼女の話は
まるで朗読を聞いているかのような気分に陥り、真名部は言葉も挟まず黙って耳を傾けた。
「ママが言ったんだ。
私のせいでパパが死んじゃったんだ、って
どうしてお前じゃなくてパパが死ななきゃならないんだ、って。
私に当たるようになって、その内手が出るようになって……
でも私……その通りだなって、思った。
パパじゃなくて私が死ねば良かったんだって。
でもだからって死ぬのは怖かった。
ママを1人で置いて行きたくなかった。
だから私、ママに嫌われてもママの傍にいようって思ってたの」
そこで1度、彼女が口を閉ざす。
1度寝返りを打って、まなに背中を向けると
彼女はそのままの状態で、低く呟いた。
「………………あの時まではね」
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