辻 704 ページ7
「見えなくして隠しておいてたんだ。
こんな事でいちいち驚くな」
驚く俺を他所にザナークはソレに歩み寄ると
慣れた様子で馬に跨るように深く腰掛け、ハンドルを握った。
「乗れ」と言いながらヤツは自分が座る座席の後ろを顎で差す。
そこは確かに人1人分座れるスペースがあるにはあるが、何分普段乗っている馬車やキャラバンと違い
また、どのように動く乗り物かもわからないので、振り落とされたりしないか心配でならない。
何より、俺はコイツをまだ信用していない。
突然現れたと思ったら俺を連れ去った男だ。
イドラの所に行くとか言ってるが、ソレも本当なのか怪しい所だ。
それでも、ついて来ているのは、もしもの期待に賭けているからだ。
そうでなければ、ダメ元でもとっくに逃げている。
「……ソレ、どれくらいスピードが出るんだ？」
「400は下らないな。その気になればもっと出せる」
「400？それって……どれくらいだ？」
「………とりあえず、馬よりはずっと速い」
「えっ」
う、馬より速いって……
馬も結構速いのに、それより……？
未知のスピードに想像出来ず、俺は目を白黒させていると、ヤツは痺れを切らしたのだろうか。
1度その乗り物から降り、いつまでも乗る様子のない俺の襟首を掴むと、まるで猫でも運ぶかのようにその乗り物の上に俺を跨らせた。
一言言ってやろうとしたが、その前にヤツも俺の前に跨り、ハンドルを握り直すとﾆﾔﾘとまた笑った。
「ち、ちょっと待て！こ、これ危ないんじゃないか！？落ちたらどうなるんだ？！シートベルトとかって無いのか！？」
「女々しい野郎だなァ、お前。
いいから黙って掴まってろ」
「つ、掴まる…？掴まるって、何処に……」
「あと、喋ってると舌噛むぞ。今の内に口閉じてろ」
「その前に説明してくれ！捕まる場所とか、安全についてとか……！」
ﾌﾞﾙﾌﾞﾙと動き出す機体。
後ろの突起からは青い炎が吹き出し、ソレはゆっくりと地面から離れて行く。
落ちるのが怖くて咄嗟にザナークの背中にしがみつくと、ヤツは一瞬目を眇めた。
そうこうしている内に機体はもう随分と高く、森の木々の高さを超え、そこで1度止まると目の前の空間が円形に割れて虹色のトンネルが現れた。
ここまではキャラバンに乗った時と同じ……という事は……
「落ちても俺は助けないからな」
「………………」
ｸﾞｯと湧き上がる感情を抑え、俺はヤツの背中を掴む手に力を込めた。
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