リボンの檻 3 【真名部陣一郎】 (ページ42)

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△リボンが137こ▽ ページ42

「どうしたの、まなべ？」

不意に声が掛けられ、真名部は思わず我に返った。

すると、いつの間にかカウンター越しに目の前にはAが立っていて、彼女は首を傾げながら真名部を見つめていた。

咄嗟に真名部は持っていたスマホを背中に隠す。

Aは気付かなかったのか、それとも敢えてそうしているのか。
不思議そうな顔をして「まなべ？」と告げた。

何故、隠してしまったのかは自分でも分からなかった。
ただ、見つかってはいけないと思った。
見つけてはいけないものだと思ったから。

しかし、そうだとすると何故Aは自分にシンクの方を任せてくれたのだろうか？

真名部のスマホの此処に放ったのがAなら、見つからないよう意地でも任せないと思うのだが。

それとも…見つけて欲しかったのだろうか？
だから敢えてわかりやすい所に置いて、真名部がここを担当すると言っても断らなかった。

だがそうなると、理由がわからない。
わざわざ見つけて欲しい理由が。

少なくとも人のスマホをここまで破壊して
優しい彼女が申し訳ない気持ちを持たないはずがない。

それともやはり、いつもの彼女は演技なのだろうか？

優しい彼女は、所詮Aが作った幻想で
本当は人を殴っても殺しても壊しても、何とも思わない人間なのだろうか。

考えれば考えるほど、わからなくなる。

目の前に立つ少女の事が。

本当のAは一体何処にいるのだろう？
どれが本当のAなのだろう？
いつもいるAはどのAだろう？

そればっかり頭を巡って、真名部の思考を掻き乱す。

真名部もAを信じたかった。
だがそれにはこのﾊﾞｷﾊﾞｷのスマホはあまりにも、衝撃的過ぎた。

彼女の二面生……いや、三面も四面も感じさせるようなこのスマホに、真名部は恐怖した。

「……何か見つけたの、まなべ？
それとも…お怪我しちゃったの？」

「い、いえっ…！ただ、量が多くて大変そうだな、と思っただけで……」

そんな真名部の考えなど露知らず、Aはいつもの調子で尋ねると、真名部は首を横に振って誤魔化そうとした。

だが直後に真名部は彼女の言った事を思い出す。

『ずっと、ずっと、隠し事して…真名部を騙してても……真名部は私の事、好き？』

真名部はその言葉に迷いなく〝好き〟と答えた。
だって本当の事だから。

この時にはもう真名部は、目の前の彼女がどうしようもなく好きだったから。