彼の悩み ページ50
「ありゃ、また逃げた」
少し目を離した隙にAは一瞬でその場からいなくなり、団長が呑気にそう言った。
俺はまた彼女と話す機会を失って、思わず肩を落とす。
……またダメだった。
Aと話が出来なかった。
Aはいつもそう。
俺とはまともに話してくれない。
話そうともしないんだ。
そうして言葉に詰まったらいつも逃げる。
それか叩いたり殴ったり刺したり脅したりしてくるんだ。
『………これ以上、僕に酷い事言わせないで』
さっき彼女が言った言葉を思い出す。
怖がってた。声も震えてた。
でも言った言葉は優しかった。
切羽詰まって口から出ちゃったのかな。
そんなに迫った覚えはないけれど。
アレは彼女の本音だ。
きっと彼女自身もまだ知らない本音。
……ううん、目をそらしてる本音。
Aは頑固な所があってね。
自分も他人もなかなか認めようとはしないんだ。
特に俺の事に関してはね。
そんな彼女があんな事を言うだなんて。
A、余程参ってるのかな。
………俺が心を取り戻した事に。
「あの逃げ癖どうにかならんモノかね。
今度リラに相談してみっか……」
「……団長、俺って変?」
「へ?」
困ったように頭を掻いてから腰に手を当てる団長に
俺はおもむろに問い掛ける。
急な話に団長は一瞬間の抜けた声を上げた。
俺の方に向き直り「変?」と首を傾げると、顎に指を添える。
「まーーそりゃ変わってる方だとは思うけどな?
いや、寧ろ〈七つの大罪〉は言っちまえば変わり者の集まりみたいなモンだから、変じゃない方が変って言うか……」
「違うんだ、団長。俺が言いたいのはそうじゃない。
……心を取り戻した俺が、変なのかって事」
「……?それって……今のお前の事か?」
俺の言葉にさらに首を傾ける団長。
考え込む団長の眉間のシワも少し増えた。
Aがあんなに俺に怯える原因は、俺が心を取り戻したから。
前々からAは心を忌々しいモノとして見ていた。
まるで要らないとでも言うように。
俺が心を取り戻す前も逃亡の手助けもしてくれたし。
だからこそ、心を持たない俺が羨ましくて、妬ましくて。それに色々と酷い事もしちゃった事もあって。
俺を無下に扱うのかと思ったけれど。
心を取り戻したら、彼女は俺を怖がった。
怯えて震えて、話そうともしない。
前とは別の感情で、俺を拒絶するんだ。
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