彼女の為なら【七つの大罪】part8 (ページ30)

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彼女と彼の回帰ページ30

「少々調べてみたが、この箱の中には端から『心の魔法』など込められていない」

でもゴウセルの感情はマーリンが持ってるハート型のモノにあるんだろう？

アレさえ無ければゴウセルに心は宿らない。

そう思っていたし矢先にマーリンのその言葉。

僕は思わず目を見張った。

「…………ぇ」

「いいや…そもそも『心の魔法』など存在しないのだ…」

「え…それじゃ…ゴウセルの心は今どこに？」

僕の視線が、ゆっくりとゴウセルに向かう。

ああ、嫌だ。聞きたくない。
どうか違うって言ってくれ。

だが無慈悲にもマーリンは続けた。

「ゴウセル自身の中に存在している。
＿＿＿＿＿＿今も昔もな」

「俺に……心？」

ゴウセルが呟く。
でもいつもの淡々とした感じの声音じゃない。

まるで普通の人間のような(・・・・・・・・・)、戸惑いを含んだ、震えた声だった。

そんなゴウセルを見て、ディアンヌは微笑んだ。

「そうだよ、ゴウセル。

その涙が何よりの証拠だよ」

ゴウセルの頬に伝う、透明な雫。
ソレを見た瞬間、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。

ﾌﾞﾜｯと肌が粟立ち、額から汗が滲む。
目の前の光景が信じられなかった。

……いや、信じたくなかった。

「ゴウセルの魔力が急激に高まった！」

「これが本来の魔力なのだろう。
記憶の回帰と共に魔力が戻ったのだ」

「………」

「ゴウセル…お前は偉大なる術士の生涯最高傑作だ。
心を持っていてもなんら不思議なことはない…」

やめろ、言うな。そんな事。
あの人形野郎に心があるだなんて。

そんな僕の願いも虚しく、目の前のゴウセルは微笑んだ(・・・・)。

ああ、そうだ。まるで感情ある種族(・・・・・・)みたいに。
柔らかく目を細め、涙を滲ませながらリラのように微笑んだ。

「俺は……自分自身の手で心を閉ざしていた。
大切な人たちの思い出を、失った痛みと一緒に忘れようとしていた。

ありがとうディアンヌ。
俺を正しい方向に導いてくれて」

「…また会えたね」

そんなゴウセルにディアンヌは嬉しそうにまた笑いながらそう言った。

今、目の前で繰り広げられた光景は傍から見れば美談だろう。
少なくとも悪い話ではないし、何なら隣のリラも目尻を下げて微笑ましく見守っていた。

だが僕から見れば、今の目の前の光景は悪夢にも等しかった。