【イナイレ】シッカーラプンツェル【不動明王】

◇ラプンツェルの涙 ページ35

「…て事で、新しいチームメイトの黒井Aだ。
皆、イジメないよーに」



この3人を止めようにも、間に割ってはいる勇気はなく
ただｵﾛｵﾛしながら見つめていたら、フドウが適当な所でそう言って私を指し示した。

でも拍手で迎えられる事もなければ、歓迎される事もなく。
寧ろ私に注目する人達も疎らで、みんなの目は冷たく冷え切っていた。


ま、漫画のお話なら転校生とか新しい仲間が加わったら少しは歓迎されるものだと思ってたんだけれど……

漫画の世界が変なのか、此処の人達が変なのか。


初めて外の世界に触れる私には、わからない。



「よ…よろしくお願いし…」

「つー事で解散。メシ食ったヤツからグラウンド集合な」



それでも私はめげずに挨拶しようと皆の前に立ったけれど、フドウに途中で遮られてしまい、彼は部屋を出て行った。

ソレを合図に他の人達も次々と部屋を出て行き
戸惑う私はそれでも誰かを引き留める勇気はなく
ただ制服のスカートの裾をｷﾞｭｯと掴んで、何かを堪えた。



…此処の人達、怖い人ばっかり。

私、どうして此処に来ちゃったんだろう。


ただ私は病院から出て、外の世界を見てみたかっただけなのに。
あの窮屈な所から出たかっただけなのに。

これじゃあ、いつもと変わらない。
ううん、いつもより惨めだ。


私って……どうして＿＿＿



「A…？」

「…！」



ついつい視線を床に落として考え事をしていたから、周りが見えてなかったの。

てっきり部屋に1人残されたかと思ってたから
声を掛けられたのにビックリして、私は思わず顔を上げると、そこにはサクマとゲンダが心配そうな顔をして私を見つめていた。


でも私と目が合うと2人とも優しく笑ってくれて
その顔を見て安心した私は、堪えていたものをﾎﾟﾛﾎﾟﾛと目から流れ落とした。



「サクマぁ…！ゲンダぁ…！」

「よしよし…心配掛けたな。不安だっただろう」

「落ち着いたら一緒に食堂に行こう。
ついでに、この潜水艦内を案内してやるから」



不安とか恐怖とか、ﾓﾔﾓﾔとかｲﾗｲﾗとか。

ソレが全部涙となって私の頬に伝い、なかなか治まらなかった。

サクマとゲンダは私が泣いている間、ずっと私の傍にいて、優しい言葉を掛けてくれた。
頭を撫でてくれたり、前みたいに楽しい話とかもちょっとしてくれた。



まだ(・・)優しかった2人はこの場での唯一の心の拠り所だったけれど

この時私は、もうこの2人が壊れている事に気付けなかった。

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