【イナイレ】シッカーラプンツェル【不動明王】

◇ラプンツェルの決断 ページ16

「まっ……待って！」



気付いたら、体が動いていた。


起き上がった私は一目散に彼の元まで向かうと、彼のタンクトップの裾を掴んで彼を引き留めた。

離れた事で石の効果が切れたのか、少し動いただけなのに息がもうあがってしまった。
でも今はそんなのに構ってられない。


私は肩で息をしながら、息を呑む。

きっとコレを言ったら、もう戻れない。
でも、それでもいい。こんな思いをするぐらいなら、いっそ………



彼の目を真っ直ぐに見て、ハッキリと告げた。



「………行く。私、アナタについてく！」

「……へぇ」



途端に吊り上がる、彼の口元。

品定めするように、私を上から下まで見遣る。


そうして再び私と目を合わせると、ﾆﾔﾆﾔと笑ったまま私に尋ねた。



「……お前、名前は？」

「…黒井、A」

「今日の夜、お前を迎えに行く。
……それまでに準備しとけよ」



表情の割に低く、落ち着いた声でそう言うと
彼はおもむろに持っていた石を私の方に差し出した。


きっとこの石を受け取ったら、私は彼と私のこの話が成立してしまうんだ。

つまり、私はこの病院から出て行かなくてはならない。


私は手を伸ばし、でも受け取れずに引っ込めて、また手を伸ばして、引っ込めて。

まだ迷いのある私を催促するように、早く受け取れと急かすように。
彼は持っていた石を「ほら、」と更に私に近付ける。


ゆらゆらと、揺れる紫色の石。

その綺麗な石に吸い込まれるように、私の腕が伸びた。


そっとその石の部分を握ると、彼はﾊﾟｯと手を離し
私は強く握って胸元に石を置くと、彼は私に背中を向けた。



「じゃ、またな。黒井チャン？」



最後に彼はそう言うと、窓から飛んで隣の木の枝を掴み、地面に降り立った。

此処は2階だからそんなに高いとは思わないけれど…
それでもこの高さから飛ぶのは普通は怖いと思う。此処に来る時も、サクマとゲンダの所に行った時も、あの人はこの木を登って来たんだろうな。


それから彼は1度も振り返らずに、そのまま病院の兵を乗り越えて外の世界へと言ってしまった。


私はその背中が見えなくなるまでずっと窓の外を眺めていたけれど、ふと手元に残る異物感に両手を広げると、そこにはさっきまで彼が持っていた、不思議な紫色の石があった。

その石の存在はさっきのやり取りが現実だという紛れもない証拠だ。


私はその石を再び胸元で握り締め、彼が見ていた�爛愁讚瓩鮓�遣る。





「………ごめんなさい」

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