◆悪者の苦悩 ページ49
勝手に怒って、勝手に悲しんで、勝手に希望を奪われたみたいな顔して。
ようやく黒井は静かになると、俺はベンチに置いたドリンクに口を付ける。
その時に一瞬だけ、雷門の方を見てみた。
さっきの坊主頭のヤツ、マネージャーに足を手当てしてもらってるが……顔色が宜しくないようで。
ありゃ、もう使えねぇな。
となると、さっきの連携も出来なくなるってワケだ。
あー、カワイソウ。
ま、そうしたの俺なんだケド。
「(黒井もバカだな。俺が素直に言う事聞くと思ってんのかよ。お前じゃないんだから)」
視線を黒井の方に戻すと、彼女はまだ崩れてた。
その場に女の子みたいに座って、呆然と目を見開いたまま動かない。
こうなってると、まるでお人形のようだ。
そんなに人を傷付けられたくなかったのかよ。
相変わらずアイツは世間知らずでお人好しだ。
………だったら素直に雷門の所に行けば良かったのに。
大体、アイツに
まるで絵本から出て来ました、みたいな頭のヤツがココのやり方について来てるだけマシってもんだ。
でもとうとうアイツもついて来れなくなって来たんだ。
でも雷門の所行けば、アイツの悩んでる事も、やりたくない事も、やらせたくない事も全部解決だ。
こっちの汚いやり方について来なくてもいいし
何より大好きなんだろ？雷門。
俺だってあんなヤツ、試合に出させたくなかったし、そっちのがいいと思ったよ。
案の定、当日にｳﾀﾞｳﾀﾞ禁断技の事言いやがって。
何度も説明したってのによ。
「(なーんでアイツはコッチ側に残っちまったんだろ)」
鬼道がアイツ誘った時は驚いたけど、同時に少し期待した。
黒井がそのまま向こうに行ってくれりゃ、アイツが無駄に考えなくて済むって。
アイツの望むサッカーが出来るって。
でも、あのバカの答えはコッチ側に残る事。
それがもし本当なら、コイツ1回頭の病院に連れてった方がいい。
何をどうすればこんな所が好きになるんだろう？
今の今まで病院で生活してたから、そこら辺の感覚が狂っちまってるんだろうな。
でなきゃ、そんなトチ狂った事言わないっての。
『や…やめて……この人は殴らないで……
この人は…この人はっ……』
「………本当に、なんでなんだろうなァ」
彼女と話した後のドリンクは、何故だか味がしなかった。
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