お姫様の願望 ページ1
お姫様は王子様と結ばれて、お城で幸せに暮らす。
よくあるハッピーエンドのお話。
私はこういうお話が大好きだ。
だって物語のお姫様達はみんな優しくていい子で、それに素敵な子だから。
シンデレラも白雪姫もオーロラ姫も、みんなみんな素敵な子達。
途中で意地悪な継母や、自分の母親や、悪い魔女に酷い事をされるけど、でも最後には王子様が見つけてくれて、甘く優しい口付けを交わすの。
病院で生活していた私は毎日のようにそんな物事を読み耽っては、自分もそんなお姫様達のように王子様が迎えに来ないかなって憧れていた。
そうして自分を物語のお姫様にして、空想していた時期もあった。
例えば私は地下に閉じ込められたお姫様。
意地悪な魔女に捕まって、毎日扱き使われているの。
でもある日王子様が助けに来てくれて、結ばれる。
そうしてお城に戻っていつまでも幸せに暮らしましたとさ。
例えば私は塔に取り残されたお姫様。
誰からも忘れられた場所でただ1人、ずっとそこで過ごしてて。
でもある日、私の歌声を偶然聞いた王子様が私の所にやって来て。
彼は私をお城に招待してくれて、そこでプロポーズされて、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
例えば私は双子の妹の方で。
お姉さんは私に意地悪ばっかりして、でも他の誰にも気付かれなくて。
でも王子様だけは姉に意地悪されているのに気付いてくれて。
そのまま王子様は私だけお城に連れて、意地悪な姉のいない所でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
何回も、何十回も、何百回も思い描いた。
その度に現実に打ちのめされた。
…分かってるよ。私はお姫様じゃない。
綺麗な金髪も、素敵なドレスも、美しい顔も持っていない。
白馬に乗った王子様も、素敵な帽子を被った王子様も、マントを靡かせる王子様もいない。
実際、私を迎えに来たのは王子様と言うよりは盗賊だ。
それに私を連れ出した所で、私に残された時間は普通の人よりも短いの。
お金が無いと手術が治らない病気だから。
……ああ、でも。それでも。
私の大好きな物語のような、夢のような時間が過ごせるのなら。
今すぐ、そこに行ってみたいな。
最後ぐらい、優しい夢を見てから眠りたいな。
そうしてずっと、その幸せの夢の中にいたい。
王子様にキスをされても目覚めたくなくなるような。
そんな、幸せの夢の中で。
………そこに彼もいたらいいのに。
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