レモネード・アドレセンス【宮侑】 (ページ5)

今日:10 hit、昨日:5 hit、合計:28,763 hit

．ページ5

先輩は何かに気付いたのか、笑顔の代わりに真面目な顔つきをした。

「あんま駄弁ってたら授業遅れるな。もう行った方がええわ」

「あ、ほんまや！」

「失礼します！」

「行ってらっしゃ～い」

その言葉と、手を振る先輩。
それだけで溢れる新婚感といったら。

星奈先輩が奥さんになったら絶対幸せだろう。
可愛く見送ってくれて、帰ったら癒してくれて。

「絶対仕事頑張る……」

「？なんや？」

「いや、何もないで」

「そか。あ、星奈先輩美容学校進むらしいやん」

「らしいな」

「大阪らしいで」

「大阪か～…………はァ!!?大阪!!!??」

驚きのあまり出した声に視線が集まる。
銀にもうるさいと言われてしまった。

兵庫と大阪は目と鼻の先だが、それでも会うのに多少の時間がかかる。
そもそも、卒業後もあのひとが会ってくれるとは限らないのだが。

銀の話によれば、ひとり暮らしもするそうで。

「あのひとがひとり暮らしとか危なすぎやろ!!男連れ込んだら俺許さん!!!」

「誰目線で言うとんねん……。先輩にあれこれ言う前に、告白ぐらいせなあかんて」

「ヴッ……!!」

「星奈先輩からしたら、侑はただの後輩ちゃう？」

「…………今日の銀容赦無さすぎや……慈悲ぐらい恵んでくれや…………」

「他のひとに星奈先輩とられても知らんで」

「あかんっ、そんなんあかん!!」

「頑張って進展させや」

星奈先輩とこうして気軽に会えるのもあと1年を切っていると考えると焦燥感が滲んできた。

銀の言う通り、このままでは誰かに星奈先輩をとられてしまう。
あのひとの進路を知っているひとなら、俺と同じぐらい焦燥感に苛まれているはずだ。
そして告白するひとが増え、その中のひとりと星奈先輩が付き合ったら発狂ものだ。星奈先輩が卒業するまでの高校生活は、土砂降りの雨の中に居るみたく気分が下がったまま上がらないだろう。

「どうすればええと思う……？」

「まずは距離つめな。傍から見ても2人は、先輩後輩の仲やで」

後輩であるが故に、先輩は俺を可愛がってくれる。
その関係に甘んじている自分が居るのは事実であり、また、その関係を自ら壊す勇気が湧いてこないのだ。

先輩が俺を好きなってくれたら、なんてたらればを願ってしまう俺はなんて愚かなのだろうか。