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『…お前には幸せになって欲しいんや。』
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あの後乗ったタクシーで、私もすばも一言も発さなかった。家に着くまで腕は離してくれなかったし、家に入ってソファーに座らせられても二人の間には静かな時間が流れた。
その静寂を切り裂いたのは、何かを聞きつけて急いでやってきた信ちゃんと何か分からないけど連れてこられた感じの横山さんの息切れだった。
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「お前アホか!女はな、誰彼構わず付き合おうとかな言うたらあかんねん。」
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「違うもん!亮くんは俺と付き合ったら、何か変わるかもしれないからって「アホか!利用されてんねんって!」「やから!違うって!」
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「…あんな、お前だけは…お前だけにはな、いつまでも女で居って欲しいねん…。安売りせんと、そんまま居って欲しいねん。」
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「…お前には幸せになって欲しいんや。」
「いつだってそう。酔った時に言う言葉は『お前には幸せになって欲しい』って…でもね信ちゃん…私の幸せを勝手に決めないで…。信ちゃんが安売りって思った事が私の幸せへの道かもしれないよ?なのになんで決めるの?なんで私にこうあるべきと押し付けるの?私は信ちゃんの操り人形じゃないよ。」
でも私にはそれが凄く重みだった。信ちゃんの操り人形じゃないよ。って何度も出かけたこの言葉が出た時、私は後悔という気持ちがぶあっと溢れてきた。
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あぁ、また一人。私は大切な人を失った。あの人も信ちゃんも…。
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「ひな、お前は過保護過ぎんねん。で、A。俺が怒ったのかなんで叩いたのか分かるか?
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それはな、お前が一番お前自身を愛してへんからや。そりゃ辛いやろ、大倉とセ ックスもするやろ。でもな、ええねん別に。Aが幸せなら俺ら何も言わんねん。やけどな、いっときの気持ちで人を傷付けんな、ひなもあの亮って奴も。」
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すばの言葉に涙が溢れ出ると、横山さんが抱き締めてくれて頭をポンポンと何度も撫でてくれた。
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作者名:みーとぼーる | 作成日時:2016年10月13日 3時