4話 ページ5
「じゃ、そういうことで…」
「ああ……ん?」
くるりと長い髪を靡かせながら、背を向けて歩き出したセルキーを見ていたその時、僅かだけど鼻についた刺激臭に眉を寄せる。
そして、ちら、と匂いのする方へ視線をよこせば目に入ってきたのは扉にかけられた魔術開発師団という文字。幻覚であってほしいがその扉の隙間からは健康的な色ではない煙が漏れ出ていた。
羽の付け根にぞわり、悪寒が走る。
うそだろ。
「セルキー!」
「何?」
「こっち来い!」
「は、ちょっ」
むんずと彼女の腕を掴み、力いっぱい自分の方へと引き寄せる。「ぎゃ」というくぐもった声と胸への衝撃。そのまま体全体でさらに包み込みながら収めていた翼を勢いよく広げれば、こちらを見上げるセルキーの瞳が、紫に照らされ大きく見開かれたのがよくわかった。
瞬間、背後から轟く爆音。そして鼻の奥にツンと香る異臭と炎の匂い。
羽で上手く防ぎ切れたようで、特に痛みを感じなかったが、爆音に揺らされた脳内にぐらぐらと視界が揺れた。
「なんの匂いだこれ?!くっそ、魔術開発師団なんてもの作ってるんだ」
「あ、熱い…」
腕で鼻を覆いながら、ぼやいていると腕の中のセルキーが小さく呻く。
僕から離れようと胸を押す手を掴んで、止めるように促した。
「もう少しで煙がはれるから待って」
「…う」
「セルキー?」
なんだ?様子が…。
喋らなくなり、体に力が入ってない様子のセルキーを改めて見てみると、彼女は真っ赤な顔でだらだらと汗をかき体の至る所からパキパキと鱗が現れ始めていた。彼女の日が当たるということを知らないような白い肌に、硝子のような鱗が僕の炎を反射して紫色に光る。
「なッ…」
その瞬間、
目は縫い留めらたように動かないのに、頭は冷や水をかけられたように冷静で、
喉は馬鹿みたいに乾くのに、身体はじっとりと汗をかいていた。
「…リ…ト」
もう少し
「フリ…ト」
もうちょっと
「イフ…ト…!」
もっと、見たい
「イフリート・ジン・エイト!!」
「ったあ?!」
額に走る衝撃と痛みに目が先ほどよりもチカチカとくらみ、その勢いのまま後ろにしりもちをつく。ズキズキと痛む額を押さえながら、前に視線を向ければ、顔を特に額を真っ赤にしたセルキーが荒く呼吸をしながらこちらを睨め付けていた。
「熱い!からさっさとそれしまえ!!」
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本人 - 紅しょうがさん» ありがとうございます☺️ (7月17日 22時) (レス) id: ba52897e96 (このIDを非表示/違反報告)
紅しょうが - めちゃくちゃ好きです‼更新待っています! (7月17日 19時) (レス) @page6 id: 333fed96b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2023年7月14日 18時