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「あ、ゲートだ」


必死で走っているとゲートの前で手を振っているナワーブがいた。

イライさんの声に応えようにも、

ついて行くだけで精一杯だ。


「大丈夫かい?もう少しだけ、頑張って」


わざわざ振り向いて、そう言ってくれた。

優しいな……。


「よっし、トレイシーは向こうから脱出したから大丈夫だぜ」
「そうかい」
『ナっ、ワブ…チェ…イ、ス…おつ、かれ』


ゲートを無事潜り、

待っていたナワーブに感謝の言葉を伝えた。


「大丈夫かな……走り過ぎてしまったね」

「Aは貧弱だからな」


……背中をとんとん されて心臓が拍動する。

顔がギューッと真っ赤になっていくのが分かる。

恥ずかしさから目をつむった。


「そろそろ帰ろーぜ?ほら雨も降りそうだしよ」


ナワーブの言うとおり、厚い雲が空を覆い始めている。

ぽつり、ぽつり――――


「さて、皆さんそろそろ帰る時間ですよ」


リッパーさんもやって来て、

帰るように催促してきた。

私は返事をしようと、彼のほうを向き直った。


―――――刹那。

目の前が真っ暗になった。


「Aさん、大丈夫?」
『カヒュッ、ゲホゲホ……イラ、さ…ヒュゥッ、ア、だいじょ、』


口を開けば、

咳が止まらず、

目には涙が浮かんできて

視界が不明瞭になる。


「Aっ、落ち着け!」
「すぐに荘園へ連絡を……」


リッパーさんやナワーブの声も遠くで聞こえる気がする。

ナワーブが差し出した腕に縋りつく様にしがみついた。

必死で呼吸を整える。

でも、リッパーさんの刃が目に入った時

言い知れない不安に駆られた。


『や、やだやヒュゥッ、ヒッだやだやだケホッゴホゴホ…や、』


どす黒い闇に脚を取られて沈んでいくような。


『なわ、ヒュ…ぶ、いらッケホ、サ…カハッ……ヒゥッ』


不意に頭に殴られるような衝撃を受けた。


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作者名:三千幸 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年11月24日 20時

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