【つ.わはす】T×A系。【ア.ブ】

06「嫌いと好きは同じ一直線上にあるからね」 ページ6

「ていうか、アブさん禁煙してたんじゃなかったでした？」
「んー？あー、まあ、ね」
アブさんは歯切れ悪くうなりながら、おもむろに私の体を壁に追いやり、はさむように両手をついて。

「Aちゃんさぁ、もしかしてショタコン？」
「壁ドンしないでください……何ですかそれ」
「最近、後輩くんのこと見すぎ。そしてにやけすぎ」
「そんなつもりはないですけど」
アブさんには言われたくない、と思ったのが顔に出ていたのだろうか。手首をつかむ力が強くなる。

「ちょ…っ、痛いです。離してください」
「俺、思ったんだ」
アブさんは遠い目をしている。

「最近ほら、お互いにさ。馬鹿みたいに忙しかったじゃん？特に俺なんかはイケメンだし仕事もできるし？でもたまにはさ、こういう二人だけの時間を設けてさ、コミュニケーションやスキンシップも大事だと思うんだよね。よりよい関係を築くために」
私は冷めたまなざしで、長身の彼を見上げ。

「……本音は？」
「Aちゃんと愛をはぐくみたい！」
「……アブさんって、頭いいのに馬鹿ですよね」
「あっはは、ひどいなー。俺はAちゃんのことをこんなに想ってるっていうのにー」
「私はっ。アブさんみたいなちゃらちゃらした人、嫌いです」
「へぇ。嫌い、ってことは、少なくとも意識はしてくれてるんだ？」
「は……」
瞬きすると、にやにやしたアブさんの顔が近付いて。
思わず顔をそむければ。耳元に触れる吐息。
普段よりトーンの低い声でささやかれる。

「『嫌い』と『好き』は同じ一直線上にあるからね。つまり、Aちゃんの心を少し揺さぶれば、『嫌い』も『好き』に転じる可能性があるってわけ」
「なっ…」
「見てみたいなぁ……俺を嫌い嫌い言ってたAちゃんが、いつしかよがりながら俺のことを求めるようになる姿……すっっっごく可愛いんだろうなぁ……ああ、今も十分可愛いけどね？」
つつ、と私の頬を指先で撫でて、にっこり笑うその顔に。得体の知れない黒さを感じて、ゾクリと背筋が震える。

「……変態」
「変態だけど？」
認められるとやりづらい。

「変態ついでに、ちゅーでもする？せっかくだし」
「そんな、コンビニ行くみたいな軽いノリのキスは嫌です！」
「えー。アブさん、Aちゃんをどろっどろにとろけさせる自信あるんだけどな？」
「頭にうじでもわいたんですか？」
軽口をたたきあい。押し問答していると。

ガタン、と入り口で音がした。

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