in front of "Water Lilies"

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親友から『明日ひま？ 映画付き合って』と連絡がきたのは、金曜の昼間のことだった。日曜は彼が来る予定だけど、土曜は空いていたので、私は二つ返事で親友の誘いをOKした。

観に来たのは、彼女がはまっている若手俳優が主演を務める邦画だ。彼女は周囲に上手く隠しているが生粋の俳優オタクで、私は芸能人自体には興味はないけれど、『親友が楽しければ私も楽しい』精神なので彼女のオタ活によく同行している。嫌々付き合っているわけじゃないからいいと言っているのに、彼女がどうしても譲らないから、映画館のドリンク代はいつも彼女持ちだ。そういう義理堅い子なのである。

そんな彼女が映画まで時間があるから寄りたいと言ったのは本屋だった。曰く、「映画やドラマの主演をやると雑誌の表紙ラッシュがくる」らしい。その言葉の通り、雑誌コーナーに着くと大量に増殖した彼女の推しの笑顔が迎えてくれた。


「さすがに今月買いすぎ……あ待って無理ビジュ良すぎ無理買うわ……」

「あはは」


今日も今日とて財布の紐は緩み切っているようだけれど、幸せそうだからいっか。

彼女の買い物が終わるまで適当に雑誌でも見ていよう。そう思い無意識に手に取ったレシピ本を、心の中で苦笑いして棚に戻し、別のファッション誌を手に取った。私浮かれすぎじゃないか。明日のメニューはもう決めたし、今日午前中のうちに買い物も済ませたではないか。

ちらりと親友のほうを見れば、彼女は歯を食いしばり(にやけないようにしているらしい)、推している俳優のグラビアを食い入るように見つめている。
私がつらいときにいつも支えてくれる、ちょっと過保護気味で大切な友人。彼女に『ヒョンジンのことを話したい』という思いはずっとある。彼女なら驚いて目を白黒させつつも、すぐに受け入れてくれるだろう。私と同じで現実主義な分、自分の目で見たことはすんなり信じる性格だから。ただ、こんな異常事態をなぜすぐに相談しなかったのかと怒られそうだな。なんならヒョンジンにも、『変なことしてないだろうな？！』と食ってかかって、ビビった彼が後ずさっているところまで想像できる。
我ながらしっくり来すぎるその想像に、口元を抑えてこっそり笑う。

ああ、過ぎた妄想は私に幻覚まで見せてきたようだ。
特集されている男性アイドルグループの一人をヒョンジンと見間違えるなんて。
どれだけ彼のことばかり考えているのだろう。



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