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彼の言う通りだ。こんな状況、異常以外の何物でもない。
それなのに私たちは今、クローゼットの薄暗い照明に照らされて、両脇を洋服や鞄、日用品のストックに囲まれ、足元には掃除機もあるような、そんな場所で向かい合って立っている。言葉を交わしている。
「普通じゃないのに、それ以上に今は、『ああ、自分の部屋に帰ってきたんだな』ってかんじがしてます。本当に、変なことなんだけど」
「だから、迷惑なんてことはないです」彼はそう言葉を締めた。
彼の抽象的な言葉は私の中にすとんと落ちてきた。それは、きっと私も同じ気持ちだったからだろう。
決して、この理解しがたい状況をすべて受け入れられたわけじゃない。壁がなくなる理屈はわからないし、洋服のカーテンを隔てていつでも顔を合わせる可能性がある状況に不便さを感じているのも否定できない事実だ。
それなのに、彼から届く『お返し』を楽しみにしていた私がいたのも本当で、今、彼と顔を合わせることを少しも嫌がっていない私がいるのも嘘じゃなくて。
彼がしばらく家を空けていたと聞いたとき、私は彼が私を避けていたわけではないことに安堵したと同時に、何と思っただろう。
真っ先に浮かんだのは、クローゼットでつながった先の部屋に住む私が彼に言うにはひどくおかしくて、けれどそれ以外当てはまる表現がない気持ちだった。
「私も、変なこと言っていいですか」
「はい」
「さっき、ヒョンジンさんがしばらくぶりにお仕事から帰ってきたと聞いて、思わず『おかえりなさい』って言葉が出そうになったんです。変だってわかってるんですけど、本当に、無意識に」
ああ、おかしなことを言っている。異常だと自覚している。これはきっと私たちにしか理解できない感情だ。
「言ってもらえませんか」
「おかえり、を？」
「はい」
お土産でもらった袋を両手で握りしめ、姿勢を正してヒョンジンさんの目を見つめ返す。
改まると気恥ずかしいな。
でも、その言葉を口にしようとすると、自然と笑みがこぼれた。
「……おかえりなさい」
ヒョンジンさんは私の言葉を受け止めるように一拍おいて、そして、はにかんだ笑顔を浮かべた。
化粧をしても、笑うと目がなくなってまるで子どものような顔になるところは変わらない。
「ただいま」
久しぶりに誰かと交わすその言葉がなんだかひどくむずむずしたのは、きっと、私たちの置かれた奇妙な状況のせいだけじゃないのだろう。
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菜々(プロフ) - 続きが楽しみです。更新されるの心待ちにしています🥲 (3月20日 17時) (
レス) @page45 id: 6590863194 (このIDを非表示/違反報告)
に - いつか更新されますように。 (2月2日 0時) (レス) @page45 id: 832e916a41 (このIDを非表示/違反報告)
葵(プロフ) - 初めまして。この作品を読んで癒されて、思わず一気読みしてしまいました！本当に好きなお話で続きがとても読みたくて思わずコメントしてしまいました。更新を楽しみにしています。 (1月26日 21時) (レス) id: 055f1baafa (このIDを非表示/違反報告)
夜明 - すごく面白かったです！次の更新が楽しみです！ (1月15日 21時) (レス) @page45 id: 9cb33f84df (このIDを非表示/違反報告)
belle(プロフ) - 初めまして！このお話好きすぎて心が癒されました。少しずつでも更新楽しみにしてます。 (1月3日 1時) (レス) @page45 id: a2ba23688b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：gigi | 作成日時：2023年3月7日 21時
