全てはお見通し【第五人格】 (ページ3)

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震える足がジリ…と無意識に少しだけ後退る。
後退っても、あるのは闇を抱えた深い森。

色んな感情が身体中を大暴れしていて、本当にどうにかなってしまいそうだった。
思わず鞄を抱え込んだ腕に力が入る。

滲み出そうになる涙を隠したくて俯いた。

動けないでいる私の事なんか露知らず。
パーソナルスペースなど優に越えて、少しでも手を伸ばせば触れてしまえるくらい距離を詰められた。

目の当たりにした長身に体格差を嫌でも実感させられて、その威圧感に身震いした。
ゆるりと持ち上がったその右手に、ひゅっと息を詰める。
何が起こるか分からない不安に瞼を固く閉じれば、何を思ったのかその手は私の頬を一撫でして、そのまま後頭部に回り胸元に引き寄せた。

背の高い彼は屈んで、上から覆うように私の頭を抱き、密着し過ぎない程度にフワリと体を包み込む。

「怖かっただろう、もう大丈夫だよ」

優しく、諭すように上から降ってきた低く落ち着いた声。

まるで泣き止まない赤子をあやすように、トントンと背を叩く固いグローブの感触。

額から感じる暖かな体温に。

僅かに聞こえる他人の心音に。

不安で強張った身体と、言い知れない恐怖に苛まれていた心が溶されていく。

我慢していた涙が溢れ出した。