【氷菓】 季節外れの新入部員

♯２５　―star ページ25

「湖山さん、長距離…頼めない？」
「え…私？」


「短距離は湖山さんの次に速い人が出るから…。
　あの綾丘さんに勝てそうなのはうちのクラスには湖山さんしかいないの！」

その、湖山さんもまけてるんですけども…。

しかし、私はクラスの女子生徒全員に頼めれ断り切れずに長距離走に出ることになった。
男女別で競うことをこんなに恨んだことは無いかもしれない…。


「あれ？Aがでるんだー。」
「まぁな。」

走る前私達はそんな会話をしていた。
どんなに本気で走ってもこの選手には勝てないぞ。
これは大前提だった。
勝てたためしなんか一度もない。
多分未朝も私が勝つとは思ってなかったはずだ。


だが、現実は大いに異なった。


１位となり歓声を受けていたのは
「すごいわ、湖山さん！」

「…。」


私だった。


「…え？」

夢中で走っていたから気がつかなかったけど１位は私だった。


この体育祭

この長距離

この結果が


――――全ての始まりだ。


言い訳になるかもしれないけど、私は未朝とクラスが違かったから知らなかったんだ。


未朝がそれが原因でいじめられてるなんて…。


私が強いて触れた一瞬は

部活なのに専用の靴を持ってこなかった時だ。
その日未朝の部活用の靴は…切り刻まれてたんだ…。


「あ？未朝、靴忘れたん？」
私がそう聞いたときは
「そうのぉ、聞いて。あのね、玄関にちゃんと置いてたんだよ。なのに忘れたの！」
って答えてたのに…。
いつも通りに、怒ることも悲しむことも何も見せずに未朝は言った。
私は
「ばーか」としか言ってなかった。

このとき何か一言でもいいから言ってくれれば…
微量ながら力になってやれたかもしれないのに…。


なーんて、きれい事で絵空事。
気づいてもやれねぇくせに、力になれるわけがない。


そう。レッテルは怖い。
未朝のレッテル『長距離しか能がない』。
その長距離でさえ負けた未朝は…

『無能』と張り替えられてしまったのだ。


………私のせいで…。

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