【氷菓】季節外れの新入部員 (ページ22)

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♯２２　―spade ページ22

「お前は湖山に走ってもらいたいとは思わないのか？」

これで揺さぶれるとは思っていなかったが
星蘭は黙り込んだ。

そして、しばらく間を開けて

「いいわ。答えられる程度なら教えてアゲル。」

ぐびっ、と缶の中身の飲料を飲む星蘭。
単純な人らしい…。

「いや、星蘭が知ってる未朝という人のことを全て教えてほしい。」

すると星蘭は重々しく口を開けた。

――――――――――――――

放課後。

運よくというか偶然というかなんというか部室には俺と湖山の２人だった。

俺は勝負に出た。

「綾丘未朝、亡くなってるそうだな。」

本を読んでいた湖山は少し驚いた様子で俺を見た。いつも普通だった湖山が始めて驚いた気がした。

「よくしってるなぁ…。」
「星蘭に聞いた。」と俺が言うと
「あぁ、あいつは知ってるな。」と湖山は本に栞を挟んで本を閉じた。

「自殺…らしいな。」
「ご名答。確かに未朝は自殺した。去年のことだ。」

「いじめだと聞いたが？」

すると湖山は

「驚いたなぁ、そこまで知ってるのか？」
と言葉通り本当に驚いていた。

すると、俺を試すかのように「いじめの原因を知ってっか？」と冷静に言った。
俺はそこまで知らなかった。
俺が聞いた話は
『長距離が得意な綾丘未朝という人物がいじめで亡くなった』ということのみだ。
追及する気はなかったし星蘭は「私が知ってんのはこんくらいヨ。」と言っていたので俺は素直に礼を言って引き下がった。
これが湖山の陸上引退の理由だとは思っていなかったしな。

だから首を横に振って見せた。

すると

「そうかい、そうかい。」

と湖山は言った。

「単刀直入に聞こう。
　お前の陸上引退の理由はその

　綾丘未朝の自殺に関係してるんじゃないか？」

考えては見たがこれ以上は何も分からない。
湖山や綾丘の中学校時代の生活を知らないし、
人物像も分からない。
よって、この先はどうしようもなかった。

湖山はふぅ、と息を吐き出した。

そして
何もんだよお前は、と呟いてから

「あってるよ。
　彼女の自殺が原因さ。」

湖山はどこかさびしげに言った。