【氷菓】季節外れの新入部員 (ページ19)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:41,966 hit

♯１９　―spade ページ19

部室には俺の荷物ともう１人分の荷物が置かれていた。
鞄についてるキーホルダーから誰のものか分かる。

結局、湖山は部活に来ていたらしい…。

俺は鞄を持ってそのまま出ようと思ったが足を止めてしまった。

机の上には湖山の生徒手帳が開かれていた。

「なんつー物を置いて出かけるんだ。」

落とした時あれほど素早く奪い返したというのに…。

丁寧に写真まで机に置いて…。

写真？…あぁ、陸上のやつか。

前に見たのは一瞬だったのでもう一度詳しく見たかったが
裏返しにおいてあったし、勝手に見るのもよろしくない。

そう思った時

「折木？」

という写真の持ち主の声。

「何だ？」
「何してんの？帰んねぇの？」
「お前こそ。」
「私は今から帰る。」

そういうと湖山は鞄に広がっていた生徒手帳などを戻し鞄を持った。

「一つ聞いていいか？」

俺はそれを引きとめていた。
湖山はゆっくり振り返り「ん？」と首を傾げた。

「何故、陸上の本を読んだ？」

これだけは聞きたかった。
別に誰がどんな本を読もうが自由だ。
でも、陸上競技関係者じゃない人が陸上競技の本を読むだろうか？
あの本はオリンピック選手がアドバイスをしている本だ。
興味本位で分かるようなもんじゃない。俺もあの後見てみたが専門用語なのか分からんが俺には理解できん言葉が多々あった。
湖山には理解できるのだろう。

湖山は「へぇ、図書室にいたんだ。」といつも通りに言った。

「本は読む人がいるからそこにあるんだ。
　手に取ってみるのは自由だろ？」

いや、その手に取った理由を聞きたかったのだが…。

「本当は陸上やりたいんじゃないか？」

気軽にそういうと湖山は真顔になり、
すぐに

「まっさかぁ。」とおどけた調子で言った。

最後に

「未朝、って誰だ？」

この質問だけは本気で答えが聞きたかった。

「何だ、写真見たんだ。ひどいな。」
「誤解してるようだが、見たのは拾った時だ。」
「…あぁ。あったねそんな事。
　未朝は私の中学の同級生さ。」

湖山はそれしか教えてくれなかった。