黒鍵の曲譜 (ページ29)

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もうやけになって何時間も歩いた

夕方に近い

こういうときにこそ彼が役に立ちそうだ

そう思って疲れた足で工藤邸へと足を運んだ

インターホンを押す

いるかな？いないかな？

いなかったらどうしよう、帰りたくない

沖矢「はい、沖矢ですが」

A「この前、また来てくれって言ってたよね
お酒飲みに来てって言ったよね
だから今日とめてよ」

私は精一杯言った

沖矢「どうぞ」

彼のどうぞで肩の荷がおりた

トボトボと屋敷の中に入った

沖矢「いやー、こんな早くにあなたが訪ねて来てくれるとは嬉しいですよ」

A「なんか人間と関わるのって難しくて今日は疲れた」

沖矢「それはまた、大層な悩みですね
良ければ聞きますよ
ライでよろしいですか」

私は静かに頷いた

ライはやっぱり美味しかった

おかしな言い方だけどいつのんでもライ

緩んだ方がペラペラいろんなことを喋り出した

A「最近一緒にいると心地いいなって思っている人がいて、
だから、私のことに関して彼を巻き込みたくない
絶対巻き込んじゃいけない」

沖矢さんは私の心でも読めるのかな

バーボンなんか飲んじゃって

沖矢「それはその方のことが好きなんじゃありませんか」

私はむせた

好きになった！？

今まで私に巻き込んじゃいけないって自分を律してきたのに

大事なものは作らないって言い聞かせてきたのに
よりによって好きな人

大事！？でも心当たりあったかも

いや、でもこの大事はお母さんみたいの大事だったはず

まあ、お母さんも大事だけど

どうしたものか

沖矢「百面相ですね」

A「ちょっと前に似たような大事に思っていた人が死にました
なんでも相談できました
それこそ沖矢さんが作るタマゴサンドその人が作った味に似ています」